【糖尿病専門医が解説】糖尿病から感覚神経を守る方法

神経障害

糖尿病から神経を守る方法を知っているか、知らないかの差はとても大きいです。

感覚神経を守るには、食事の前の血糖値を130mg/dL、食事の後の血糖値を180mg/dL、HbA1cを7.0%より低い値にすることが大切です。

早めに見つけること、感覚神経障害が出た後は毎日足を見ることが大切です。

今回は糖尿病の合併症のうち早い時期に出てきてしまう合併症、感覚神経障害について書いていきます。

糖尿病と言われている方

既に感覚神経障害が出ている方

にとっては特に知っておいた方が良いお話です。

糖尿病の合併症について

 血糖値が高い状態が長く続くと、その影響でいろんな悪いことが起こるのがわかっています。

 起こってくる悪いことを難しい言葉で”合併症”と呼びます。

 糖尿病で起こる合併症を糖尿病合併症といいます。

 高血糖は全身の血管をいためてしまいますが、そのいたんだ血管が関係しているところがダメージを受けてしまいます。

いたみやすいために三大合併症と言われているのが、

体の中で情報を伝える役割をする神経がいたむ 神経障害

目がいたむ 網膜症

血の中にある余分なものを捨ててくれる役割をする腎臓がいたむ 腎症

の三つの合併症です。

この記事では、三大合併症の一つ、神経障害のうち感じたことを伝える役割をする感覚神経の障害についてお伝えします。

神経の分類について

まず神経とは何かについて説明します。

神経は、全身に張り巡らされています。

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そして、情報を伝達する役割があります。

神経には種類があります。

頭の中にある脳と背骨の中にある脊髄、この二つを合わせて中枢神経と呼びます。木で言うと幹の部分です。

それ以外の木で言うと枝にあたる部分を末梢神経と呼びます。

末梢神経はさらに

体性神経系

自律神経系

に分かれます。

体性神経系は

運動神経と

感覚神経に

自律神経系は

交感神経と

副交感神経に

分かれます。

自律神経は、血圧、心拍、体温、腸の動きなど、24時間起きている間も眠っている間も生命を維持するために意識せず働いてくれている神経です。

例えば、

血圧が高ければ低くするように調整してくれて、

血圧が低ければ高くするように調整してくれます。

このように、神経自らが調律する仕組みなので、自律神経と呼ばれています。

運動神経は筋肉を動かす神経です。

脳から出た命令は、神経を通って筋肉に到達すると、その命令を受けた筋肉が動きます。

神経の中でも動かす・運動するという命令を伝えるのでこれは運動神経と呼ばれています。

運動神経は脳から筋肉という方向に情報を伝えます。

感覚神経は、逆に、何かを触って、それがどんな手触りかなど、感じた情報を脳や脊髄に伝える役割の神経です。

方向が、運動神経と逆です。

例えば、

ざらざらしている。

つるつるしている。

硬い。

柔らかい。

熱い。

冷たい。

痛い。

痒い。

などの情報を脳に伝えます。

感じたことを伝えるので感覚神経と呼ばれています。

神経障害について

神経はこのように分かれますが、糖尿病でいたみやすいのはこのうち感覚神経と自律神経です。

さらに絞ってこの記事では糖尿病によって感覚神経がいたむことやそれで困らないようにする方法についてお伝えいたします。

感覚神経障害について

まず感覚神経障害についてです。

糖尿病で最初に起こる合併症の一つが今回説明する感覚神経障害です。

感覚神経は全身に張り巡らされていますが、糖尿病では両方の手と両方の足がいたんでしまうことが多いです。

ちょうど手袋をつけたり靴下を履いたりする場所に起こるので、手袋靴下型と言われることがあります。

高血糖が長期間続くことで血管をいためてしまい、その血管に関係する神経がいたんでしまうからです。

感覚神経がいたんでくると、感じたことを脳に伝えるのが難しくなるので、足の裏に何があるか、手で触った感触はどうかなどが伝わりにくくなります。

感覚神経がいたむと何が困るでしょうか。手で触った感覚が伝わりにくいと困るな、というのは実感しやすいですよね。

蛇口から出るお湯の温度やスープが入った容器の温度が分かりにくくて熱いものを触り続けてしまうと、手を火傷してしまいます。

もっと怖いのは、ストーブに触れてしまうと熱いと感じて手を引っ込めます。

でも、感覚神経がいたんでしまっていると、その感覚が伝わらずに触ったままになってしまい大火傷してしまいます。

では、足の感覚が伝わりにくいと何が困るでしょうか。

それは、足を怪我したり、火傷したりしても気付きにくいと言うことです。

感覚神経がいたんでくると、異常事態に気付きにくいので困るんです。感覚神経が弱っていない時は、靴の中に小さい石ころが入っているだけで痛いと気づきます。

しかし、感覚神経が弱り切ってしまうと、足に尖ったものが刺さってもわからなくなってしまうことがあるんです。

尖ったものが刺さった時、すぐに気づくとどうするでしょうか。まず歩くのをやめて、刺さったものを取り除いて、足を綺麗に洗うと思います。

さらに、怪我をしてるのに気づいたら近くのお医者さんに行く方が多いと思います。

では、足の感覚が伝わりにくくなって尖ったものが刺さっているのに気づかないままだとどうでしょうか。

気づかないと、そのまま歩き続けてしまうんです。

足に何かが刺さっていたとしてもです。

何かが刺さったまま長い時間歩くことで、足の怪我がどんどん拡大していきます。

また、怪我をした傷口から細菌が入ってくることで感染して、さらにそれがどんどん広がることがあります。

感染が広がると足がパンパンに腫れ、悪化すると高い熱が出てきてやっと気付くようになります。

そうやってだいぶ悪くなってから気づいて、近くのお医者さんに行くのですが、怪我が大きすぎると急いで治療をしても綺麗に治らないこともあります。

このように糖尿病で感覚が鈍くなると困ることが増えるということがわかっていただだけましたでしょうか。

また、感覚神経のいたみ方がひどくなってくると、何もなくてもジンジンする、チクチクする、腓返りが起こる、足をつるといった症状が出てくることもあります。

怖いなと思われた方も少なくないと思います。

しかし、今回伝えたいのはただ、怖い、ということではありません。

ここからの話がとても大切です。ここからの話をどうしても知ってもらいたいのでこの記事を書きました。

感覚神経障害の予防

糖尿病から神経を守る方法を知っているか、知らないかの差はとても大きいです。

まず、神経障害を起こさないようにするためには、血糖値を出来るだけ良い値にしておくことが大切です。

何年もの長い期間、高すぎる血糖値が続くことで神経がいたんでいくことが分かっています。

血糖値で言うと朝ごはんを食べる前の血糖値が130mg/dL、ご飯を食べて2時間後の血糖値が180mg/dL、これらの数字より血糖値が低いと神経障害の進みは遅くなると言われています。

過去1から2ヶ月の血糖値を反映するHbA1cという検査項目があります。このHbA1cの値で言うと7.0%未満にしておくといいことがわかっています。

ですので、神経障害を起こさないためには血糖値やHbA1cを低い値にするのが大切です。

そして、それをずっと維持し続けていくのが神経を守るためにとても大切です。

神経障害が既に始まってしまっている方も血糖値やHbA1cを低い値にし続けることで、将来どんどん神経障害がひどくなっていくのをゆっくりにしたり、防いだりすることができるかもしれません。

血糖値を適切に保ち続けることが神経を守ために大切です。そうすると他の糖尿病の合併症からも体を守ることができます。

血糖値を適切に保ち続けることは、一石二鳥どころか、一石十鳥以上のメリットがあります。

ですので、血糖値を適切に保つことを大切にしていただきたいんです。

感覚神経障害の発見

ここまでは、感覚神経を守るという話でした。

ここからは、感覚神経がいたんでいるかどうかをどうやったら知ることができるかというお話です。

感覚神経が既にいたみ始めているかどうかに早めに気付くことが大切です。

自分でわかる変化としては、例えばフローリングの床に裸足で立っているのに床の感覚が伝わりにくいという始まり方があります。

紙を1枚挟んだように感じると表現される方もおられます。

お医者さんに行きますと、自分ではできない方法で感覚神経のいたみの程度を確かめてくれます。

例えば、

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アキレス腱を打鍵器というハンマーで軽く叩いてアキレス腱反射を確かめたり、

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ブーンとふるえる音叉を内くるぶしに当ててどれくらい弱い振動まで感じることができるかをみたりして感覚神経がいたんでいないかを確かめてくれます。

調べるのに時間がかかるので、毎回確かめることは難しいのですが、

糖尿病と言われてから3年以上経っている方で、一度も確かめてもらったことがないよという方はお医者さんに相談して一度確かめてもらうといいかもしれません。

感覚神経障害があるときの注意点

ここまで、神経を守る方法や神経がいたんでいるかを調べる方法についてお話しした。

では、すでに感覚神経がいたんでいる方はどんなことに気をつけたら良いでしょうか。

まず、足をよく見ることです。

それだけ?と思われるかもしれませんが、これを習慣づけるのがとても大切です。

気付きにくいのは足の裏なんですが、普段から足の裏を毎日みる人は少ないと思います。

ですので、裸足になる時、例えば、お風呂に入っている時に、足の裏まできちんと見ることが大切です。

それでケガを見つけたり、赤くなっていることを見つけたら早めに対応することができます。

それでケガを見つけたり、赤くなっていることを見つけたら早めに対応することができます。

ケガがあったら、無理して自分で対応しようとせず、かかりつけのお医者さんに早めに相談してみてください。

また、お風呂に入った時に足を見る習慣ができたら、ついでに足をきちんと手入れすることも大事です。

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石鹸をたくさん泡だてて、その泡で優しく足を撫でるように手入れしてください。

今回は感じたことを伝える神経、感覚神経について、守る方法、気をつけることをお伝えさせていただきました。

まとめ

糖尿病の三大合併症のうちの一つ、神経障害のうち感覚神経障害についてのお話でした。

体が感じたことを脳や脊髄に伝える感覚神経障害は糖尿病があるといたみやすい神経です。

感覚神経を守るには、食事の前の血糖値を130mg/dL食事の後の血糖値を180mg/dLHbA1cを7.0%より低い値にすることが大切です。

感覚神経がいたんでいるかどうかを把握するのは

足の感覚が鈍いことに気づく

お医者さんでアキレス腱の反射振動を感じることができるかの検査をしてもらう

などの方法があります。

また、既に感覚神経がいたんでしまっている場合は、

毎日足をよく見てあげることが大切だとお伝えしました。

以上です。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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参考文献・参考書籍

【参考文献】

N Engl J Med 2005; 352:341-350

【参考書籍】

糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

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