生活習慣と関係なく誰でもなりうる1型糖尿病という病気について正しく理解しましょう。
1型糖尿病は糖尿病の中でなる方の割合は少ないのですが、発症を予防する手段がほぼ無いため誰もが発症する可能性があります。
この病気になった後困ることの一つに病気について理解している人がとても少ないことが挙げられます。
理解を深めることで、今後の人生を大きく左右するかもしれません。
糖尿病の中で最も多い成因である2型糖尿病と似ている点もありますが、異なる点について比べておくとどちらの糖尿病についても理解しやすいです。
出来るだけ分かりやすく解説します。
1型糖尿病と言われたばかりの方
大切な人が1型糖尿病と言われた方
にとっては特に知っておくと役立つお話です。
1型糖尿病
1型糖尿病は、血糖値が高くなる病気、糖尿病の一つのタイプです。
体の中にあるホルモンのうち、血糖値を下げるのはただ一つ、膵臓で作られるインスリンです。
1型糖尿病ではそのインスリンが膵臓で作られなくなるために血糖値が下がらなくなってしまいます。
治療法はインスリンを外から補充する以外になく、インスリン製剤が発売される1923年までは血糖値を下げる手段がありませんでした。
現在では、一般にインスリン療法が行えるので、インスリン製剤の投与を継続することで血糖値をちょうどいい値に保つことができるようになっています。
2型糖尿病と比べると、1型糖尿病になる人は少ないですが、その違いまで理解されている方は少ないです。
共通点
2型糖尿病と似ている点がいくつかあります。
一つは血糖値が高くなる病気である、という点です。
血糖値が高い状態が長く続くと糖尿病の合併症が起こるという点も共通です。
合併症の予防のために血糖値をちょうどいい値にしておいた方が良い点も同じです。
高血糖になったときの症状も似ています。
中くらいまでの高血糖ではほとんど症状がなくて、ある値を超えてくると、尿の量が増え、喉が乾き、水をたくさん飲むようになり、体重が減り、疲れやすくなります。
定期的に通院して検査をしながら血糖値をちょうどいい値にする点も共通です。
異なる点
異なる点は、原因です。
1型糖尿病は自己免疫というシステムが関係しています。
通常、免疫とは体に入った異物をやっつけるシステムなのですが、それが暴走して自分の体の一部を敵であるとみなして攻撃してしまうことがあります。
1型糖尿病では膵臓のインスリン を作る部分を敵とみなして攻撃し壊してしまいます。
その膵臓を攻撃して壊すシステムが作動してしまう原因ははっきり分かっていません。
1型糖尿病では攻撃するシステムの要である自己抗体が検査で見つかることが多いです。
子供の頃にかかることがやや多いですが、赤ちゃんからご高齢の方まで全ての年齢で起こる可能性があります。
肥満や生活習慣とは関係なく起こります。
2型糖尿病ほどは遺伝しません。
一方、2型糖尿病はインスリンが効きにくいインスリン抵抗性やインスリンを作る力が十分でない体質の方などに、食べ過ぎ、運動不足、ストレス、肥満、加齢などが加わるなどして、インスリンは分泌さているけれど足りないという時に起こりやすいです。
2型糖尿病に関してはめちゃくちゃ分かりやすく説明した動画が別にありますのでそちらをご覧ください。
2型糖尿病では自分の膵臓を攻撃する抗体はありません。
治療
1型糖尿病の治療は原因から考えると分かりやすいです。
血糖値が下がらないのは、膵臓のインスリンを作る部分が壊されてしまうからです。
現代の医学では、壊れた膵臓のインスリン工場を元には戻すことはできません。
つまり根本の部分は治せません。
インスリンは血糖値をよくして生命を維持するのに欠かすことはできません。
そこで、インスリンを外から必要なだけ補ってあげるようにします。
インスリンの薬は液体で皮膚に注射すると体の中に吸収されます。
ペン型の注入器を使って自分で皮膚に注射します。
インスリンは様々な製剤が販売されていて場面に合わせてそれらを組み合わせて使います。
1回打ったらどれくらいの効果が持続するのかが製剤によって違います。
1回皮膚に注射すると長時間持続する持効型インスリンというインスリンと最も効果が速い超速効型インスリンの組み合わせが多く用いられています。
元々、膵臓ではインスリンが作られていますが、これは24時間ずっと作られ続けています。
24時間少しずつ出ていないといけないインスリンが全く出ていないので、それを補うために長く効果が続く持効型インスリンを決められた時間に1日1回投与します。
また、体は血糖値が高くなりそうになったらインスリンをたくさん作ることで血糖値を一定に保つ仕組みが元々あります。
特に食事を食べた後には大量のインスリンがすぐに作られます。
1型糖尿病では大切な働きをしてくれているこれらのインスリンが作られないので、ご飯を食べた後の血糖値の急激な上がりを抑えるために、超速効型インスリンを食事の前に皮膚に注射します。
1日3回食べる方は3回、食べる直前に皮膚に注射します。
間食をする方は間食を食べる直前にも皮膚に注射します。
食事を食べる以外にもこの超速効型インスリンを使うことがあります。
それは血糖値が高くなってしまった時です。
血糖値が上がったら血糖値を下げたいのですが、そのために超速効型インスリンを注射します。
血糖値は器械を使って測らないとわからないので、1日4回以上血糖値を測定してその値に合わせてインスリンを打つ量を調整するようにします。
注射の回数をまとめるために、食事の前に血糖値を測定して、食事に対するインスリンの量と血糖値を下げるためのインスリンの量を合わせて一度に注射します。
これらは一般的な方法ですが、他にもその人に合った方法で行うことがあります。
インスリンポンプ療法といって、3日間くらい皮膚に柔らかい針をさしたままにしておいて、小型のコンピューターで制御できるシステムでインスリンを注入することもできます。
24時間血糖値を測り続けてくれる器械もあり、さらにそれをインスリンポンプ療法と組み合わせることもできます。
これらを使いこなせると血糖管理がとてもやりやすくなります。
このようにインスリンは薬自体もたくさん種類がありますし、それを体の中に入れる器具もどんどん選択肢が増えています。
これらのうち自分に合ったものを使って、血糖値をちょうどいい値に保つのが治療です。
生活習慣は1型糖尿病の原因ではありません。
しかし、食べ過ぎ、運動不足、睡眠不足、肥満があると血糖値をちょうど良い値にするのが難しくなることがあります。
ですので場合によってはそれらを見直すこともありますが、あくまでインスリンの補充がメインです。
想い
1型糖尿病に関して、周りの人に知っておいてもらいたいことがいくつかあります。
まず先ほどお伝えした通り、インスリンの注射をしないと生きていけないこと。
そのインスリン注射とセットで血糖測定をしたり、食事に対するインスリン量を決めるために食事中の炭水化物の量を計算したりしていること。
そうやっていても、高血糖になってしまったり、逆に治療が強すぎて低血糖になってしまったりするのは完全には避けられないこと。
低血糖になった際にはまわりの助けがとてもありがたいこと。
低血糖になった際は、糖分を取らなければいけないので、それをとがめたり禁止したりしないで欲しいこと。
あまり知られていない病気であるため、自分が1型糖尿病であることをカミングアウトしにくいこと。
そんな中で1型糖尿病であることを伝えられたら、どのような想いでそれを伝えてくれたのかを考えていただければと思います。
未来
現在は、1型糖尿病になるとインスリン注射なしでは生きていけません。
この状況をなんとか変えたいと1型糖尿病になってもインスリン注射の必要が無い未来を本気で考えて行動している人がいます。
インスリンを作る工場である膵臓の移植、膵臓の中のインスリンを作る部門である膵ランゲルハンス島の移植、それらの移植の副作用を抑える工夫、自分の細胞から膵島を作りだす再生医療、それらの研究をしている人たちがたくさんいます。
そんな未来を信じて研究の資金を集めている人たちがたくさんいます。
その資金はもっとたくさんの人の寄付によって支えられています。
もっともっとたくさんの人にこの病気への理解を深めていただければと思います。
仲間
私がいくら勉強しても、お話を伺っても力不足を感じることがあります。
1型糖尿病の方にしかわからない、家族や友人や医療従事者にもわからない想いや考えがあります。
そのような想いを共有するために、1型糖尿病の患者会やサマーキャンプなど同じ立場の人たちが集まるイベントがあります。
医療者もそういった集まりに行くことをお勧めしています。
私もそういった会の立ち上げを行ったり、会の運営のお手伝いをさせていただいていたりしてます。
感染予防のため時期によっては中止になったりオンラインでの開催になっているようですが、同じ立場の人の言葉の方が届きやすく、記憶に残りやすいので、こういった会があることも知っておいてください。
同じ立場の人の言葉を聞きたいし、自分の言葉を聞いてもらいたい人が集まり、非常に満足されています。
単純にとても仲の良いお友達ができることもお勧めする理由です。
なかなかそういった集まりに参加できないという方は、1型糖尿病の方が書かれている著書や講演などで、この病気をどのように受け入れてどのように付き合っているのかを知るのも非常に良いと思います。
書籍を1冊とスピーチの動画を1つ紹介します。
書籍としては、僕はまだ がんばれる-不治の病 1型糖尿病患者、大村詠一の挑戦を超オススメします。
著者の大村さんは元エアロビック競技日本代表の方です。子供の頃に1型糖尿病と診断された時のご自身について、ご家族について、素敵な友人や恩師や主治医との出会いを通してどのように苦難を克服してきたのかが詳しく書かれています。
非常に読みやすく、医療従事者から同じ話を聞くより何倍も伝わるものがあると思います。
大村さんは全国をまわってご講演もされておりますが、スピーチ動画を配信するTEDという媒体でもその講演を視聴することができます。
スピーチ動画の最後ではめちゃくちゃかっこいい大村さんが観られます。
まとめ
1型糖尿病は、膵臓のインスリンを作る部分が壊されて、血糖値を下げる機能がなくなってしまう病気です。
2型糖尿病との共通点としては、血糖値が上がり、それが長く続くと合併症が起こってしまうので、血糖値をちょうどいい値に保つ必要がある、ということです。
2型糖尿病との違いとしては、生活習慣や肥満とは関係なく発症すること、インスリンを作ることが全くできなくなることです。
治療はインスリンの補充をすることです。24時間持続的に補充が必要で、さらに血糖値や食べるものに応じて適切にインスリンを使っていきます。
こういった治療をしていても血糖値をちょうどいい値にするのは簡単ではなく、血糖値が高すぎたり低すぎたりして不調になることがあるのでそう言った時にはサポートがとてもありがたいです。
現在はインスリンを補充し続けなければいけませんが、その治療が必要なくなる未来に向かって研究が進められています。
同じ立場の人とのつながりをもったり、困難を克服した人の体験を知ることをお勧めします。
YouTube動画紹介用PDF
印刷物でこの動画を紹介してくださる方はこちらのpdfをお使いください。
参考書籍・参考文献
免責事項
情報は慎重に作っておりますが、目の前にいらっしゃる医療スタッフの方々に、この情報の内容がみなさまの状況に当てはまるかどうかを確認していただけますと幸いです。
所属する施設・団体・組織と関係なく医師資格と糖尿病専門医資格を持った個人として情報を発信しております。
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