いきなり運動は危ない!?糖尿病の運動療法を始める前にチェックすべき8個のポイント!【糖尿病専門医が解説】

糖尿病

逆に危ない!運動をしてはいけない体の状態、知っていますか?


運動は、血糖値を下げる、筋肉が大きくなる、骨も強くする、高血圧も改善するなどメリットがたくさんあります。
しかし、事前に確認してから行わないと、運動をしたせいで逆に健康を失うこともあります。
運動をしてはいけないのがどんな時かわかるように解説します。

糖尿病の治療として運動を開始する方にとっては特に知っておくと役立つお話です。

血糖値が◯mg/dL以上の時は運動は危ない


運動をすると血糖値が下がります。
ですので、血糖値が高い時にはすぐに運動、となってしまいますが、あまりにも血糖値が高い時にはすぐに始めない方が良いです。
血糖値が高いときには、体の水分が足りない状態になっています。
おしっこの中に糖を捨てるために一緒にたくさんの水も捨ててしまうからです。
そんな状態で汗がたくさん出るような運動をしたらどうなるでしょうか。
もっと水分が失われてしまいます。
夏なら熱中症になって意識を失い倒れることもあります。
朝ごはんを食べる前の血糖値がいつも250mg/dL以上なら運動は控えた方が良いです。
また、血糖値を下げるインスリンというホルモンの不足でおしっこの中にケトン体が出ている時も同じく運動を控えた方が良いです。
血糖値が高すぎる状態やケトン体が作られる状態は、食事療法とお薬で改善できます。
一旦、血糖値が改善してから、運動を開始しましょう。

運動前に必ず眼科受診をする理由


糖尿病の三大合併症の一つは、目に関係する糖尿病網膜症です。
網膜症に関しては詳しく解説した記事が別にありますのでそちらもご覧ください。


糖尿病網膜症は失明につながる合併症ですが、進行していても途中だとほとんど症状がありません。


進行している網膜症があるときに運動をしたら、網膜のある眼底から血が出てしまうことがあり、目が見えなくなることにつながることがあります。


ですので、運動を開始する前に眼科を受診して、網膜症の進み具合は必ずチェックしてもらいましょう。


その結果によって運動の種類や強さなどが制限されることがあります。
網膜症がない場合は特に運動の制限はありません。
網膜症がある場合でも初期の単純網膜症の段階では運動制限は特に必要ない場合が多いです。


網膜症が進行している増殖前網膜症や増殖網膜症の場合は運動を制限しなければなりません。


息をこらえてフンッと力を込めるような運動は特に避けた方が良いです。
これは糖尿病でいたみやすい眼底という部分の血圧が上がってしまうからです。
また、頭を下げる運動も同じように眼底の血圧が上がるので避けてください。
体に衝撃が加わるジャンプや頭をぶつけるような運動も避けてください。

腎臓の力が落ちているかチェック


運動する前に腎臓のチェックをした方が良いです。


腎臓はいつも体の老廃物、いらないものだけを体の外に捨ててくれています。
糖尿病でこの力が落ちてしまうと体にとっていらないものが捨てられずに残ってしまったり、体にとって必要なものがおしっこの中に捨てられてしまったりすることがあります。
これを糖尿病腎症と言います。
糖尿病腎症も糖尿病の三大合併症の一つです。
糖尿病の腎臓の合併症に関しては別に詳しく解説していますのでそちらもご覧ください。


糖尿病腎症が進んでくると、おしっこの中にタンパク質が漏れ出てきます。
検査では、蛋白尿アルブミン尿が出ていますね、と言われるようになります。
腎臓から捨てられる老廃物でクレアチニンというものがありますが、腎臓の力が落ちるとこれが体の中にたまります。
血液検査をすると、クレアチニンが高いですね、と言われるようになります。
腎臓の力がなくなって腎不全になってしまうと、運動をすることで腎不全が進んでしまうことがあります。
と言っても、全く運動しないと腎臓以外の部分で悪影響が大きいので、腎臓の状態をこまめにチェックしながら、悪化しない強さ、長さの運動をしていくのが良いです。
担当の医師と相談しながら運動をどれくらいするか調整してください。

運動中、いつの間にか心筋梗塞に


心筋梗塞という心臓の病気について聞いたことがありますか。
心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割をしています。


これにより、全身の臓器、細胞に必要な酸素や栄養が届けられます。
心臓を動かすのにも血液が要るので心臓へ届けるための血管がありますが、その血管が狭くなってしまう病気があります。


心臓を動かす血管が狭くなる原因の一つが糖尿病です。


糖尿病があると、血管が硬くなり、だんだん血管の内側の通り道が狭くなり、最後には血管が詰まってしまいます。
心臓の狭くなることは狭心症と呼ばれます。


狭心症は胸の痛みや息苦しさが出ますが、休んでいれば改善します。
心臓の血管が詰まってしまうと、休んでも元に戻らなくなり、心筋梗塞と呼ばれます。
心筋梗塞になると心臓の一部が動かなくなります。


この心臓の一部が動かなくなるとどうなるでしょうか。
まず、心臓の近く、胸のあたりに痛みが出ます。
そしてきちんと全身に血液を送り出せなくなると体にとって重要な酸素が足りなくなります。


すると、息苦しく感じるようになります。
冷や汗が出たり、吐き気が出たり、意識を失ったりして命に関わることもあります。
心筋梗塞は運動をしている時に起こることが多いです。


運動をすると、全身の筋肉に酸素を含んだ血液をいつもよりたくさん送らないといけなくなります。
いつもよりたくさん送るためには、心臓がいつもより多く動かないといけなくなります。
しかし、心臓に血液を送る血管が狭いとそれができず、血液の流れが足りなくなります。


その結果、心臓が栄養不足を起こしてしまい心臓の一部が働かなくなってしまいます。
血管が狭くなっている狭心症という段階で前兆として痛みを感じられると、そろそろ危ないというのがわかるのでそこで検査を受けて治療すれば良いです。


しかし、糖尿病の合併症で痛みの感覚が伝わりにくくなってしまうことがあると狭心症になっても痛みが分かりません。
痛みがわからないと、前兆なくいつの間にか心筋梗塞になってしまうことがあります。


痛み以外の症状はわかりにくいので、運動をするなら事前に心臓の血管が大丈夫かをチェックした方が良いです。
まず危険度を調べて、それに合わせて血管の詳しい検査を行います。
この検査をして、もし危ないことが分かれば運動は制限して、心臓の血管の治療を先にするようになります。

運動のせいで骨や関節の病気を悪化させない方法

膝や腰などの病気があったら、無理に運動はしない方が良いです。



痛みがある場合は、まずは整形外科で正しく病気を診断してもらいましょう。
運動によって改善する病気なのか、悪化する病気なのかによって治療は異なります。


整形外科で運動を許可された場合も痛みがあると続けるのが辛いですよね。
体重が重たくて、その負荷のせいで歩くだけでも膝が痛いという方がおられます。
その場合は、膝の周りの筋肉を鍛えると改善することがあります。


また、膝に負担のかかりにくい水中での運動が効果的です。
体重を減らして膝への負担を減らすためには食事の見直しも有効です。
腰の痛みも周りの筋肉を鍛えると改善することがあります。


痛い部分の周りの筋肉を鍛える運動は方法を間違えると危ないので、理学療法士や整形外科医など専門家の指導に従ってください。

感染症にかかったらまず休む


糖尿病の方は、感染症にかかりやすく、またかかった場合には重症になったり長引いたりしやすいです。
では感染症にかかってしまったら運動はどうしたら良いでしょうか。
まず、休むことが大切です。
運動療法のメリットは大きいですが、感染症がある時期に行うほどのメリットはありません。
体が感染症と戦うためにエネルギーを使いたい時に、運動に多くのエネルギーを割くのは感染症の治癒が遅れる原因になります。


運動を始めてから感染症かなと気づくこともあると思いますが、できれば運動前にいつも体調を簡単にチェックして異常がある場合は運動はお休みしましょう。
糖尿病の場合は特に高熱や嘔吐下痢症があると脱水がひどくなりやすく重症になりやすいです。


感染症は気をつけていてもかかります。
かかってしまったのは仕方ないので、被害が小さいうちに適切に対応して、早く元気になって運動がまた再開できるようにしてください。

運動するなら足のここをチェック


足のチェックは糖尿病の方は毎日した方が良いです。
糖尿病の合併症で痛みを感じる神経が障害されます。
その場合、足に怪我があっても気付きにくくなります。
入浴の時など、足の裏まで毎日チェックしてください。
靴ずれによる赤み、足の裏の怪我、皮膚の変化などないか見てください。
また、長い距離を続けて歩いていると足が痛くなってくる、というのは血管が狭くなっているサインかもしれません。
その時は足の色が、紫や白っぽくなったり、冷たくなることがあります。
怪我が悪化したり、血管が詰まる状態が続いたりすると、足の一部が死んでしまう壊疽という状態になることがあります。
壊疽は足の趾(ゆび)やくるぶしに起こりやすいです。
小さい怪我でも適切な治療を受けて、治ってから足に負担のかかる運動を再開するようにしましょう。

運動中に意識を失う糖尿病合併症がある


糖尿病の合併症のせいで運動で意識を失うことがあります。
その合併症は、自律神経障害という合併症です。
自律神経というのは、意識して働かせなくても自動的に体の状態を良い状態に保ってくれる神経です。
血圧、脈拍数、腸の動きなどをちょうどよく保っています。
運動をすると、筋肉に普段より多くの血液を送るため脈拍が速くなります。
また、頭の位置を急に高くしても血圧を上げて頭に血液が届くようにしています。
糖尿病ではこの神経を栄養する血管がいたんでしまい、神経までいたんできます。
そうなると、適切に血圧、脈拍数、腸の動きを保てなくなります。
自律神経の力が落ちてしまうとこの働きがうまくいかなくなって、血流不足になります。
脳はこの血流不足になると意識を保てなくなり、倒れてしまいます。
意識を失うのが、硬いアスファルトの上だったり、高い場所だったり、水中だと命に関わることもあります。
自律神経のチェックは、立ちくらみ、便秘などの症状も大切ですし、心電図の検査で脈拍の調整ができているかをチェックするとより詳しく分かります。

まとめ


まとめです。


朝ご飯の前の血糖値が250mg/dL以上の場合は運動すると危ないことがあります。食事療法とお薬で血糖値を下げてから運動を開始しましょう。


糖尿病で目の合併症があると運動により眼底出血することがあります。眼科を受診して事前のチェックを受けてください。


腎不全があると運動により腎不全が悪化することがあります。腎不全の状態をこまめにチェックしながら運動の強さの調整をしてください。


糖尿病では心筋梗塞の前兆である胸の痛みが分かりにくくなることがあります。血管の検査を事前に受けて安全を確認してから運動を始めてください。


膝が痛い、腰が痛いなど骨や関節の症状があれば整形外科を受診して運動ができるか確認してください。食事療法で適切に体重を落として負担を減らしたり、痛い部位を悪化させない運動方法を選んでください。


高熱を伴う感染症、嘔吐下痢症などがあれば、治るまでは運動療法をお休みしてください。


足の趾も足の裏もチェックして小さい怪我を見逃さないようにして、もし怪我や赤みがあれば治ってから運動を始めてください。


糖尿病の合併症で自律神経障害が起こると、脳への血流がうまく送れずに意識を失うことがあります。症状や心電図検査などで事前にチェックしてください。


メリットがとても多いので、糖尿病の治療を成功させるために多くの方にとって運動はした方がいいですが、今回お伝えした項目を必ずチェックしてから開始してください。


安全が確認できたら、楽しい運動を始めて、ぜひ長く継続しください。
以上です。


ありがとうございました。

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参考文献・参考書籍

【参考文献】

日本人の食事摂取基準(2020 年版) 厚生労働省

日本食品標準成分表2015年版(七訂) 文部科学省

【参考書籍】

糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

糖尿病専門医研修ガイドブック

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