【糖尿病専門医が解説】食事と運動だけじゃない 今日からできる糖尿病の予防法9選 2型糖尿病にならないためにやるべき行動

発症予防

 2型糖尿病と診断された方の多くが、”もっと早く知っていれば良かった”と言われる糖尿病の予防法を分かりやすく解説します。

 これまでに多くのリクエストをいただいたテーマ、糖尿病の予防についてです。

 今回のお話を1日でも早く知っておくことで、糖尿病で困る人が減ります。

 この内容は既に糖尿病と診断された方の悪化の予防にも役立ちます。

 また、2型糖尿病は遺伝しやすいので、自分の家族にこの予防の知識を伝えると家族の糖尿病を予防できるかもしれません。

 糖尿病になるから◯◯してはいけないという禁止だけする後ろ向きなメッセージではなく、糖尿病にならないために代わりに◯◯した方がいいという前向きなメッセージにまとめました。

 でははじめて行きましょう。

 健診で血糖値が高いと言われた方、2型糖尿病になるのを防ぎたいと考えている方とっては特に知っておくと役立つお話です。

予防の知識をつけて行動すると糖尿病は予防できるのか

 糖尿病の予防はまずどうやったら糖尿病を予防できるのかを知識として得ることがスタートになります。

 実際に、保健指導を受けることで生活習慣が変化して糖尿病を予防できることがわかっています。

 電話での指導を受けることでも予防できることが分かっています。

 実際の流れとしては、まず健診を受けます。
 血糖値やHbA1cが高いなど糖尿病になる可能性が高いかどうかを調べます。
 その結果で保健指導の対象かどうかが決まります。

 健診や保健指導による糖尿病の予防は国や自治体が力を入れているので、無料で受けられることが多いです。

糖尿病|厚生労働省
糖尿病について紹介しています。

 保健指導という本格的な形でなくても、糖尿病の予防に関しては保健師糖尿病専門医などが情報を発信していることがあります。

 このブログやYouTubeでの情報発信もその一つです。

専門医とうすけの糖尿病レベルアップチャンネル
糖尿病専門医が糖尿病に関する動画をアップします。 レベルアップしたい誰かのお役に立てると嬉しいです。 【MedPeer(医師専用)】 チャンネル  新規登録の医師の方用の紹介コード「5zn277」  【資格】 日本糖尿病学会 専門医+研修指導医 日本内科学会 認定内科医+総合内科専門医+指導医 【アイコン】 可...

 ぜひ活用して知識を増やしてください。

見える化して体重を◯kg落とすと糖尿病の予防効果が出る

 糖尿病の予防に肥満の解消は有効です。

 BMIという体格の指数をもとに肥満を判断することが多いです。

BMI = 体重(kg) ÷ [身長(m)]2

 そのBMIが23kg/m2以上の方は糖尿病になりやすいことが分かっています。

 特に、内臓脂肪が多い方はリスクが高いです。

 体重を一気に落とすのは大変ですし失敗しやすいので強くはお勧めしません。

 これまでの研究で体重を2kg落とすと糖尿病の予防効果が出ることが分かっています。
 2kgを落とすことから始めてみましょう。

 純粋な脂質は1グラムあたり9kcalです。
 脂肪組織は水など他のものも含みますので、脂肪を1kg(1000g)落とすには約7200kcal消費しないといけません。2kgだと14400kcalです。

 摂取するエネルギーを100kcal減らし、消費するエネルギーを100kcal増やせば、1日で200kcal分ずつ体重を減らすことができます。
 72日くらいで体重が2kg落ちる計算になります。

 記録自体が大変だと継続が難しいので、体重計はWi-FiやBluetoothでデータがスマートフォンに送られるようなものがお勧めです。

 体重計に乗るだけで綺麗なグラフが出来上がるので、体重が変化しているのがとても分かりやすく続けやすいです。

 自宅の脱衣所などの目につくところに出しっぱなしにしておいてください。

 また、定期的に自分の体の写真を撮ることをお勧めします。

 特に減量前の写真は撮っておかないと後からは撮れないので必ず撮っておきましょう。

 誘惑に負けそうなときはその減量前の写真を20秒眺めることをルールにしてみてください。

 たいていの誘惑はそこで断ち切れるはずです。

 食事や飲み物などによる摂取エネルギー運動や基礎代謝などによる消費エネルギーの見直しが必要になるので、次からのチャプターで説明します。

食事の見直しの簡単すぎる始め方

 食事に関しては食べすぎている方が多いです。

 その場合は摂取が多すぎる栄養素を減らす必要があります。
 脂質を摂り過ぎている方は脂質の摂取を減らします。
 炭水化物を摂り過ぎている方は炭水化物の摂取を減らします。

 と言っても、自分がどの栄養素を取りすぎているのかをどうやって記録して、どうやって調べるのでしょうか。

 簡単なのは写真を撮ることです。

 2週間程度、全ての食べ物と飲み物を写真で記録しておいてください。

 サイズや栄養成分表示がわかるように撮っておくのが大切です。

 まずは三大栄養素であるタンパク質、脂質、炭水化物を大体どれくらい摂取しているかをみます。

 空いた時間に写真を見返しながらインターネットで調べれば3大栄養素はすぐにわかります。

カロリーSlism - 栄養成分/カロリー計算
カロリーslismは豊富な食品の詳細な栄養成分を見ながら分量を指定してカロリーを知ることができる計算機:元気な生活のための最適なツールです.

 1日3食、14日間だと42回分、さらに間食をされる方はそのデータもまとめて、平均値を出してみてください。

 ずっとこの計算を続けるのは大変なので1年中する必要はありません。

 季節ごと、1年ごとなど食事の見直しをしてみると良いと思います。
 取りすぎている栄養素が分かったらそれを減らしましょう。

 例えば脂質は1日何gまでと決めたらまずは脂質だけに注目していくのがやりやすいと思います。それができたら次は炭水化物などレベルを上げてください。

 減らすだけの食事療法ではモチベーションが保てないと思うので、少し補足します。

 食物繊維を摂る量が足りていない方が多いです。

 食物繊維の摂取不足を解消すると糖尿病になりにくくなります。

 食物繊維の多い食品、例えば、玄米、ワカメ、椎茸、ゴボウなどに置き換えられないかを検討してみてください。

 これまで白米だった方は、いきなり全て玄米にするのではなく、少しずつ玄米の割合を増やして自分に合った配合を見つけるも良いかもしれません。

 食事は、人生の楽しみの大きな部分を占めていますので、無理だけはしないでください。

 楽しみながらできる範囲で食事を見直してみましょう。

見落としがちな飲み物、お酒と糖尿病の関係

 飲み物に関しては食べ物とは分けてお話しします。

 砂糖入りの飲料は糖尿病の発症リスクをほぼ確実に上げることが分かっています。

 砂糖入りの飲料の代わりは、できれば人工甘味料では無く、ただの水や炭酸水やお茶にしてください。

 人工甘味料は腸内細菌に影響が出るという報告もあり、糖尿病の発症リスクを上げてしまうかもしれません。

 逆にブラックコーヒーや緑茶は発症リスクを下げます。

 水分摂取は大切ですが、飲み物の種類を砂糖が入っているものから入っていないものに変更ができないか検討してみてください。

 次にお酒のお話をします。

 糖尿病の発症を予防するためにお酒を飲むのはお勧めしません。

 肝臓と膵臓は血糖値を安定させるのに大切な臓器ですが、アルコールはこのどちらにもダメージを与えてしまいます。

 特に、1日23g以上のアルコールを摂ると糖尿病の発症が増えることが分かっています。

 純アルコール量は、

摂取量(ml) × 度数(%) / 100 × 0.8(比重) = 純アルコール量(g)

で計算ができます。

 例えばビール500ml、アルコール度数5%の場合は、
500 (ml)× 5/100 × 0.8 = 20(g)
 になります。

 自分の飲んでいるお酒のアルコール量を計算してみてください。

 お酒は人生の楽しみの一つですが、1日で飲むアルコールの量をできるだけ23g未満に抑えて、お酒も人生も長く楽しめるようにすることをお勧めします。

運動は生活に組み込んでしまう

次に運動です。

 座っている時間が長いほど糖尿病になりやすいです。

 運動はやればやるほど糖尿病の予防効果があります。

 運動と聞くと、走ったり筋トレをしたりすることを思い浮かべるかと思いますが、毎日のお仕事、通勤などの活動も含みます。

 むしろ普段の生活で体を動かさないといけない場面や時間が多いほど、糖尿病になりにくいです。

 学校の先生だと、教頭先生や校長先生になって授業をする機会が減ってしまい、座って仕事をするようになったら血糖値が上がって糖尿病になる、退職して通勤もしなくなるともっと悪くなるというようなパターンが多いです。

 このように日々の生活の中に運動を習慣として組み込めているかどうかが糖尿病のなりやすさに大きく関わっています。

 運動の種類は、有酸素運動と筋トレの組み合わせが糖尿病のリスクを大幅に低下させてくれます。

 有酸素運動は隣の人と話しながらできるくらいの強度の運動のことを言います。

 筋トレは、筋肉をどんどん大きくしていく、あるいは筋肉が小さくなるのを予防するために行います。

 筋肉は基本的な消費エネルギーが大きいので、筋肉が大きくなると自動でエネルギーを消費してくれます。

 つまり、筋肉が大きくなればなるほど基礎代謝がアップするので、同じくらいのエネルギーを消費するのがどんどん楽になります。

 心肺機能を高めてすぐにエネルギーを消費してくれる有酸素運動

 筋肉を大きくすることで基礎代謝を増やす筋トレ

 これらを組み合わせるのがお勧めです。

 運動は時間との戦いになります。

 スキマ時間に運動を開始してみてください。

  エレベーターを使わず階段を使う。
  帰りは一駅くらい歩く。
  テレビを見ながらスクワットをする。
  朝15分間筋トレしてから出かける。

など生活の中に運動を組み込むと長続きしやすいです。

睡眠と糖尿病の深い関係

 良い睡眠を取れていると糖尿病になりにくいです。

 良い睡眠が取れているかの基準は昼間の眠気です。
 昼間に眠気があれば睡眠の量か質が悪い可能性があります。

 睡眠について見直す時には、
厚生労働省の睡眠12箇条を参考にしてみてください。

睡眠対策
睡眠対策について紹介しています。

 そこにも記載がありますが、日中に運動量が足りていない方は睡眠の質が落ちることがあります。

 運動を増やすこと自体が糖尿病の予防にもなりますし、運動により良質な睡眠が得られるとそれも糖尿病の予防になり一石二鳥です。

糖尿病になりやすい働き方

 あなたはストレスが高いですか。

 この質問でストレスが高いと答えた方は糖尿病になるリスクが高いです。

 例えば、交替性勤務で主に夜に働くとリスクが高いことが分かっています。

 また、職場でのいじめや暴力は発症リスクを上げます。

 うつ病やうつ傾向があると、糖尿病になりやすいです。

 働き方に関しては自身で解決するというより、裁量権のある管理者が、労働者のストレスを軽減してリスクを上げないようにするのが大切です。

 自分に裁量権がある方は健康面を優先して働き方の見直しを検討してみてください。

 正直、働き方を変えるのが一番難しいかもしれません。

 ストレスの多いお仕事をされている方ほど、忙しくて自分の健康のための時間をとりにくいと思います。

 そんな方にもせめて健診を受けてその結果に応じて生活習慣を見直すようにしてほしいです。

 もっというと健診で引っかかる前に働き方以外の部分も見直して健康管理を行っていただければ嬉しいです。

タバコはやめるときも要注意

 タバコは受動喫煙も含めて糖尿病の発症リスクを高めます。

 今吸っていない方は、今後も吸わない方がいいです。

 現在吸っている方は禁煙をした方がいいのですが、禁煙の際に食欲が増して体重が増えることが多いので注意が必要です。

 体重が増えた際に糖尿病になってしまうことがあります。

 ただ、この禁煙直後の少し危ない時期さえ乗り切れば、タバコはやめた方が糖尿病になりにくくなります。

 タバコはそれ自体が動脈硬化を進めます。
 さらに、糖尿病でも動脈硬化が進むので、合併症の進行を早めてしまいます。

 タバコをうまく遠ざけることが糖尿病やその合併症も遠ざけることになります。

 禁煙外来で補助的に薬を服用しながら禁煙を行うと成功率が上がりますので専門の医師と一緒に禁煙を検討してみてください。

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糖尿病を予防する薬はあるのか

 よく質問をいただくのが”薬で糖尿病が予防できるのか”ということです。

 糖尿病になる前から糖尿病薬を飲み続けることで予防ができるでしょうか。
これはある面では正解です。

 しかし、薬剤には少なからず副作用があるので、糖尿病になっていないのに薬を使用した方がいいという人はとても少ないです。

 ブドウ糖を飲む検査で飲んだ後の血糖値だけが高めな方で、食事や運動療法を行っても改善しない、しかも高血圧症、脂質異常症、肥満や、糖尿病の家族歴がある方に限って健康保険が使える糖尿病薬が1種類だけあります。

 それはボグリボースと言って、食べたものが分解されるのをゆっくりにして食後の血糖値の上がりを抑える薬です。

 この薬だけでは完全には糖尿病を予防はできませんし保険が使える条件が厳しいので実際に使っている方は多くはないです。

 その他の糖尿病の治療薬で予防効果があるものもありますが、副作用とのバランスや費用対効果などから健康保険では認められていません。

 糖尿病を完璧かつ安全に予防する魔法のような薬は現時点では無いので、この記事で伝えた他の方法で糖尿病を予防するようにしましょう。

まとめ

 保健指導などで知識をつけて行動を変えることは2型糖尿病の予防に有効です。

 体重や体型を見える化して体重を2kg減らせば発症のリスクを減らすことができます。

 食べすぎている場合は、摂りすぎている栄養素を見つけてそれを減らし、食物繊維が不足しないようにします。

 砂糖が入った飲料を減らして、お酒を1日23グラム未満にしましょう。

 座っている時間を減らして、有酸素運動と筋トレを組み合わせた運動を生活に組み込んでください。

 日中に眠気があるなら睡眠不足ですので、睡眠12カ条を参考にして見直してください。 

 いじめ、暴力、夜勤の多い労働などでうつ病になるようなストレスを溜めないよう自分の体を守るのを優先した働き方をしてください。 

 タバコは吸わないのが一番ですが、止める際にも食べ過ぎにならないように注意し、成功率の高い方法で禁煙をしましょう。

 糖尿病を長い期間、完璧かつ安全に予防する魔法のような薬やサプリメントはありません。

 以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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参考文献・参考書籍

【参考文献】

健康づくりのための睡眠指針2014 – 厚生労働省 

【参考書籍】

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

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 記事は慎重に作っておりますが、目の前にいらっしゃる医療スタッフの方々に、この記事の内容がみなさまの状況に当てはまるかどうかを確認していただけますと幸いです。所属する施設・団体・組織と関係なく医師資格と糖尿病専門医資格を持った個人として情報を発信しております。十分な注意を払って情報を発信しております。しかしながら情報の正確性、確実性、有用性、適時性もしくは完全性について責任を負うものではありません。万一、情報を利用した結果、利用者に不都合や不利益が生じることがあっても、責任を負えませんので、慎重にご利用ください。情報は、健康・疾患・医療に関する一般的情報を提供するものであり、実際に診療にあたる医療従事者や指導者が行なうアドバイスに代わるものではありません。健康・疾患・医療に関する一般的情報は、必ずしもすべての方にあてはまるとは限りませんのでご注意ください。

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