【糖尿病専門医解説】妊娠糖尿病について知り高血糖による悪影響から赤ちゃんをまもる

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病を知って、お腹の中の赤ちゃんを高血糖から守りましょう。

この記事では妊娠糖尿病について糖尿病専門医がわかりやすく解説します。

妊娠中に血糖値が高すぎると赤ちゃんに悪い影響が出ることがわかっています。

高血糖を発見する方法や血糖値をうまくコントロールする方法すべてを理解するのは大変ですが、妊婦さんやそのご家族が特に知っておくと良いことに絞って分かりやすく説明していきます。

妊娠中には他にも気をつけることがたくさんありますが、血糖管理に関してはこの記事から短時間で情報を得ていただければと思います。

妊娠中の方、妊娠糖尿病と言われた方、そのご家族にとっては特に知っておくと役立つお話です。

妊娠糖尿病とは

 妊娠中には、お母さんと赤ちゃんの間にある胎盤から出るホルモンの影響で血の中の糖が多くなります。
 その糖は赤ちゃんに届きます。
 そして赤ちゃんがお腹の中で生命を維持したり成長するためのエネルギーとして使われます。

 胎盤からのホルモンの影響で血糖値が上がりすぎるといけないので、それに対抗してお母さんの膵臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンがたくさん作られます。

 こうやって血糖値を上げるホルモンが出るのに対抗して、赤ちゃんが糖を使うこと、お母さんがたくさんインスリンを作ることで、血糖値をちょうどいい値に保つようになっています。

 しかし、人によってはそのインスリンを作る力が足りなくて、赤ちゃんにとって血の中の糖が多すぎる状態になってしまいます。

 赤ちゃんは糖が少なすぎるとエネルギー不足になりあまり成長できませんが、逆に糖が多すぎると成長しすぎて巨大児になったり、生まれた赤ちゃんのいろいろな合併症につながってしまいます。

 ですので、妊娠中の血糖値がちょうどいいかどうかをチェックします。

 妊娠糖尿病というのは、妊娠中にはじめて見つかった、まだ糖尿病になっていない高血糖の状態です。

 妊娠前から元々糖尿病があった方は糖尿病合併妊娠と別の呼び方をしています。

 また、妊娠前に見逃されていた糖尿病、妊娠中の変化で血糖値が糖尿病の状態にまでなったものは妊娠中の明らかな糖尿病という名前がつきます。

 この記事で説明する妊娠糖尿病は名前に糖尿病という言葉が入っていますが、一般的な糖尿病と比べて診断基準が厳しくなっています。
 なぜ厳しくなっているかというと、妊娠中の高い血糖値は、お腹の赤ちゃんに影響があるからです。
 妊娠中に血糖値が高めという方はチェックしながら血糖値をちょうどいい値に保ってあげてお腹の赤ちゃんへの影響を減らしましょう、というのが妊娠糖尿病です。

どうやって見つけるのか

 妊娠糖尿病を見つけるには、血液検査が必要です。 

 妊娠初期に1回、妊娠24〜28週でもう1回、血糖値をチェックすることが推奨されています。

 施設によって基準が違いますが、病院に来た時の血糖値が100mg/dLあるいは95mg/dL以上の場合は詳しい検査に進むことが多いです。

 詳しい検査というのは、ブドウ糖という糖を75グラム含んだ飲み物を飲む検査です。
 このブドウ糖を飲む検査で、
  ブドウ糖を飲む前の血糖値が92mg/dL
  飲んで1時間後が180mg/dL
  2時間後が153mg/dL
という基準の値以上の項目が一つでもあると、妊娠糖尿病と診断されます。

血糖値はどれくらいにしておいたら良いのか

妊娠糖尿病と診断された場合、妊娠中の血糖値をどれくらいにしておいたら良いでしょうか。

日本糖尿病学会のガイドラインには
低血糖を避けながら、健常妊婦の血糖日内変動に近づけることを目標とする
とあります。

この低血糖とは一般に血糖値が70mg/dL未満のことで、そうならないように調整します。

低血糖に関して解説した動画のリンクを載せておきます。

高い方はどのあたりが目安になるかですが、

 朝ご飯を食べる前の血糖値95mg/dLより低い値

 ご飯を食べて120分後の血糖値120mg/dLより低い値にすること

を目標にしていることが多いです。

 血糖値を調べる方法ですが、指先に針を刺して血を出して、手のひらサイズの血糖自己測定の器械を使うことが多いです。

 また、自己血糖測定とは別に医療機関で調べる項目もあります。
  過去1から2ヶ月の血糖値を反映するHbA1cという項目は6.0%未満
  過去2から3週間の血糖値を反映するグリコアルブミンという項目は15.8%未満
を目安にすることが多いです。

 これらの値はあくまでより安全に赤ちゃんが育つための目標の値です。
 この値を超えることもありますので、次に超えないようにするにはどうしたら良いかを考える材料にしてください。
 低血糖を起こさない範囲でいかにこの値の中に調整していくかを担当のお医者さんと一緒に検討して実践していきます。

血糖値をよくする方法

 血糖管理の方法は大きく分けると2つです。

 一つは食事、もう一つはインスリンです。

 まず、食事に関してお話しします。

 妊娠中のお食事は、赤ちゃんの分だけ多めに食べることと、回数を分けて食べることが基本になります。


 食事は、バランスをよくしてください。
 妊娠中の食事の目安は厚生労働省が定めている日本人の食事摂取基準という文書に詳しく書かれています。

 妊娠糖尿病があってもなくても赤ちゃんに必要な栄養は一緒です。

 血糖値ことだけを考えて赤ちゃんのエネルギーや体を作る材料が不足しないように、必要な栄養を十分得られるように食べることが大切です。

 妊娠前と比べて、タンパク質葉酸などのビタミンカルシウム鉄分を多くとりましょう。
 逆に食塩は減らしましょう

 エネルギー量ですが、主に妊娠前の身長と体重から何kcalくらいかを計算して、妊娠中にお母さんがどれくらい動くのか、お母さんの体重の変化、赤ちゃんの成長のしかたを見ながら調整します。

 実際に、食事をバランスよく取れているかを調べるのは大変ですので、自分が食べているものの写真を撮って、それをかかっている医療機関の管理栄養士さんに見てもらい調整してもらうのが良いと思います。

 また、妊娠中は胎盤から出るホルモンの影響で、特に食べた後の血糖値が高くなりすぎることが多いです。

 ですので、食事をこまめに分割して食べる方法、分割食という方法がおすすめです。
朝ごはんを減らしてその分を朝と昼の真ん中に、昼ごはんを減らしてその分を昼と夕の真ん中に、夕ご飯を減らしてその分を寝る前に食べるという方法です。

赤ちゃんは大人と違って、24時間栄養をもらいつづけて成長しています。
血糖値が低くて赤ちゃんに栄養が届きにくい時間を減らし、食後の急激な血糖値の上がりを防ぐ分割食という食事は赤ちゃんの安全な成長にとって有利な食べ方です。

 食事に関しては、赤ちゃんの分だけ多く食べること、それを6回くらいに分けて食べることが大切です。

 このような食事の調整を適切に行なっていても目標の血糖値より高くなることはあります。

 この場合にはどうしたら良いでしょうか。

 よくある間違いで、血糖値を気にしすぎて食事を極端に減らしてしまうことがあります。

 これは赤ちゃんにとって最も大事なエネルギーや体を作る材料不足になってしまいます。

 赤ちゃんの成長にとって悪い結果になる可能性があります。

 妊娠中の高血糖は、胎盤から出るホルモンが主な原因です。
 ですので血糖値を上げるホルモンに対して血糖値を下げるホルモンであるインスリンの注射薬を使います。

 食事の直前に必要な量のインスリンを皮膚に注射して、食後の血糖値がちょうどいい値になるように調整します。

 インスリンは胎盤を通らないので直接赤ちゃんに届くことはありません。 

 インスリンはお母さんの血糖値をちょうど良い濃さにしてくれて、その濃さの糖が赤ちゃんに届きます。

 ですので、妊娠中の高血糖に対してはインスリンを適切に使って血糖値をちょうどいい値にします。

 血糖値を下げる飲み薬は胎盤を通り抜けて赤ちゃんに直接届いてしまうことがあるので残念ながら妊娠中は使えません。

 運動で血糖値を下げることに関してはどうでしょうか。
 妊娠糖尿病があったとしても運動で血糖値を下げる治療をした方がいいという研究結果は今のところありません。

 逆に運動をしてはいけないということもありません。

 まず、運動していい状態なのかを産科のお医者さん、助産師さんに確認してください。運動しても良いと言われたら、妊婦さんに一般的にお勧めされている種類、長さ、強さで運動をしてみてください。

分娩はどうなるのか

 分娩に関してですが、分娩の瞬間の血糖値は普段よりさらに低めの値が良いと言われています。場合によっては血糖値を調べて、インスリンのお薬を使いながら分娩をされる方もおられます。 

 妊娠糖尿病と言われたお母さんから生まれてきた赤ちゃんは、生まれた後に低血糖の状態でないかを調べることがあります。

 これは、妊娠中の高血糖に対応して赤ちゃんの膵臓が過剰に発達して血糖値を下げるホルモンが作られすぎていることがあるためです。

産後に気をつけること

 ご出産の後ですが、まず授乳をすることに関しては特に制限はありません。

 授乳婦の食事摂取基準で、赤ちゃんの分もたくさん食べるようになっています。

 授乳中は栄養摂取を過度に制限しないようにしてください。

 また、妊娠糖尿病と診断された方は、将来糖尿病になりやすいというのがわかっています。

 予防としては、運動量を落とさないこと、内臓脂肪を増やすような過食をしないことなどが挙げられます。

 また、糖尿病を早めに見つけて適切な対応をするために血液検査を受けてください。

 子育て中にご自身の受診をするのは大変かもしれませんが、例えば小児科と内科が併設されているようなクリニックでお子様の受診と一緒にご自身の血液検査もできないかなど相談してみてください。

まとめ

 妊娠糖尿病は、糖尿病になってはいないけれども高血糖によって赤ちゃんに影響が出ないかを気をつけなければならない状態です。

 妊娠したら血液検査ブドウ糖を飲む検査を行なって妊娠糖尿病かどうかを調べます。

 血糖値は、食前の値が95mg/dL食後120分の値が120mg/dLより低い値にすることが目安になります。

 食事は、赤ちゃんの分も多めに食べること、分けて食べることが推奨されています。

 それでも血糖値が目標の値より高くなったらインスリンという血糖値を下げるホルモンの薬を使って赤ちゃんにとってちょうどいいくらいに血糖値を保ちます。

 産後には、糖尿病を早めに見つけるために定期的に血糖値をチェックしてもらってください。

 妊娠糖尿病の知識をつけて、赤ちゃんにとって安全に成長しやすい環境を作ってあげてください。

 以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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 記事は慎重に作っておりますが、目の前にいらっしゃる医療スタッフの方々に、この記事の内容がみなさまの状況に当てはまるかどうかを確認していただけますと幸いです。

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参考文献・参考書籍

【参考文献】

Cochrane Database Syst Rev 8:CD003395, 2009

BMJ 319:1223-1227, 1999

Diabet Med 17:26-32, 2000

【参考資料】

糖尿病診療ガイドライン2019

産婦人科診療ガイドライン―産科編

日本人の食事摂取基準

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌 

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