【糖尿病専門医が解説】健診で血糖値が高いと言われたら知りたい6つのこと

健診健診

健診で血糖値が高い、尿に糖がでていると言われて、放置していませんか?

はじめに

 糖尿病ははじめのうちは痛みなどの症状がないため、健診で糖尿病と診断されても放ってしまいがちです。
 私の外来にも、健診で言われていたけれど忙しくて何年も医療機関に行けなかったという人がたくさん来られます。
 残念ながら、そういった方の中には糖尿病自体の病状や糖尿病による合併症がかなり進行してしまっている方もおられます。
 少しでも早く受診していただいた方が良いのですが、正直なかなか受診できない、という方が多いのではないでしょうか。
 医療機関にいくのがめんどくさい、糖尿病と診断されるのが怖い、忙しくていけない、治療で何をされるのかわからないなど受診までにはいろんなハードルがありますよね。
 この記事で初めて医療機関を受診するまでに現れるハードルをとっぱらいます。

対象

 健診で血糖値が高い、尿に糖がでていると言われた方、受診しようとは思っているけど理由があって受診できていない方にとっては特に知っておくと役立つお話です。

症状がないからといって放っておくと危ない糖尿病

 この動画を見ている方で最後の健診を受けたのが、2年以上前の方、まず健診を受けてください。
 いろんな理由で健診を受けられない人がいると思いますが、職場や自治体などの健診は無料で受けられることが多いので受けた方が得です。
 健診を受けた方で、血糖値が高い、尿糖が出ている、糖尿病になっているなどの判定が返ってきた、という方。
 何も症状がないからといって放置していませんか。
 糖尿病ははじめのうちは自分でわかるような症状はほとんどありません。
 症状はなくても、知らない間に糖尿病合併症という困る病気が進んでいることがあります。
 糖尿病はいかにこの合併症を起こさないようにするかが治療の中心になります。
 合併症に関しては別にわかりやすい動画を作っていますので詳しくはそちらもご覧ください。
 合併症の中には命に関わるものも少なくありません。
 何ヶ月も、何年も血糖値が高い、糖尿病という健診の結果を放置していた、という方がもしいたら、この動画をきっかけにぜひ医療機関を受診してください。
 糖尿病の治療の選択肢はかなり多いです。
 食事、運動、薬、どれも年々より良い治療法が選べるようになってきています。
 医学の力を駆使して糖尿病の治療は、より安全に、より効果的になっています。
 今日が一番糖尿病が進行していない日です。
 1日でも早く受診して治療を受けることで糖尿病で困ることが最小限になるはずです。

迷いを断ち切る!どこの医療機関か迷った時のシンプルな選び方

 次に医療機関の選び方についてお話しします。
 いざ受診しようと思った時にどこの医療機関に行けば良いか迷って、決められないために受診をためらう方も少なくないと思います。
 糖尿病の方をたくさん診ている私の考える医療機関選びのポイントをお伝えします。
 一番のポイントは、継続して通院しやすいか、ということです。
 継続できないのはアクセスが悪いという理由が多いです。
 もっと簡単に言うと通院にかかる時間が長いと言うことです。
 ですので、迷ったら家から近い医療機関、職場の帰り道にある医療機関、いつもいくショッピングモールに入っている医療機関などが継続して通院しやすいのでおすすめです。
 また、お仕事などで平日の日中の受診が難しい方は、仕事が終わった時間にも診療をしていたり、土曜日にも診療をしていたりする医療機関が良いと思います。
 糖尿病は長く付き合うことになる病気です。
 体調が悪い時、忙しい時、自分が今より20歳歳をとった時にも受診できるかどうかなどを考えて医療機関を選んでください。
 途中で医療機関を変えるのは少し手間ですのでそのような観点でも探してみてください。
 家族が糖尿病などでどこかの医療機関にかかっている場合は、同じ医療機関にしておくと良いと思います。
 ちょっといくのが面倒でも、家族と一緒ならまあ行こうかな、となることがあると思います。
 特にどちらかの体調が悪くなってもお互いに助けあえるのは通院を続けるために有利です。
 診療科は”内科”を選んでください。
 糖尿病の中には尿という文字が入っているので、泌尿器科と迷う方もいるかもしれませんが、泌尿器科は腎臓や膀胱や前立腺などを専門とした科です。
 内科といってもさらに細かく分けられていることがあります。
 糖尿病内科、代謝内科、内分泌内科という名前で糖尿病の診療をしていることもあります。
 では近くて通院しやすい距離に複数の内科のクリニックがある場合はどこを選んだら良いでしょうか。
 その場合は、日本糖尿病学会の糖尿病専門医の資格を持っている医師がいるかどうかを基準に選んでみてください。
 専門医が自分の家の近くにいるかを調べるのは、日本糖尿病学会の糖尿病専門医在籍施設検索がおすすめです。

専門医検索:一般社団法人日本糖尿病学会

 これをみて、糖尿病専門医がいるクリニックが近くにあればそこを選ぶと良いです。
 クリニックではなく総合病院に糖尿病専門医がいる場合があります。
 そこでは糖尿病専門医は入院中の血糖管理や手術前後、出産前後の血糖管理など少し特別な治療や検査を中心に行なっている場合もありますので、継続して診療してもらえるかを問い合わせてみましょう。
 近いかどうか、糖尿病専門医がいるかどうかを基準に選ぶと継続して通院しやすい医療機関が見つかると思います。
 糖尿病専門医はあまりたくさんいませんので近くにいないということもあるでしょう。
 その場合は、内科をメインにしているクリニックで総合内科専門医資格あるいは 内分泌代謝科専門医を持っている医師がいるクリニックを選ぶと良いと思います。
 これらの資格を取得、維持するのにも糖尿病診療の専門的な知識や十分な診療経験が必要です。
 そういった専門医がいない場合はどうやって選ぶかですが、糖尿病療養指導士という資格を持った医療スタッフがいる施設があればオススメです。
 どうやって探すかですが、日本糖尿病療養指導士認定機構が資格を持っている人が所属している医療機関を公開してくれています。

CDEJのいる施設を探す - 日本糖尿病療養指導士認定機構

 他の疾患もそうですが、糖尿病を診療する際は治療法の選択肢や合併症の管理などのたくさんの知識を常に最新のものにしていく必要があります。
 専門医や療養指導士は定期的に資格の更新が必要です。
 新しい情報を得るための講習を受けたり学会に参加したりするなどして最新の情報を手に入れていることが更新の条件になっています。
 医療機関を選ぶ一つの基準として知っておくと良いと思います。

最初の受診の準備は何をしたら良いの?

 受診する医療機関が決まったら、次は実際に受診する際の準備が必要です。
 まず電話などでどのように受診したら良いか問い合わせてください。
 医療機関によっては、待ち時間を短くするために初めて受診する方でも予約枠を確保していることもあります。
 その際、健診で血糖値が高いと言われたことを伝えておくとよりスムーズに話が進みます。
受診の当日に食事をせずに行った方が良いのか、尿の検査があるのかなどもここで聞いておくと良いです。
 普段外出の前にトイレを済ませておくと思いますので、急に検尿がありますと言われて慌てないようにしてください。
 私も職場の健診で検尿があるのを忘れてしまっていて、慌てて1Lくらいお茶を飲んで頑張って尿を出したことがあります。
 医療機関に初めてかかる時には他に何を準備したら良いでしょうか。
 まず健康保険証とお金と健診の結果の紙は持っていってください。
 これらの他にも、こんなことを準備しておくと良い、ということがあるのでお伝えします。
 一言で言うと、自分の体に関する情報です。
 母子手帳から始まり、健診の結果、アレルギーの情報、使っているお薬やサプリメント、他に病気があるかどうか、血の繋がった家族がどんな病気を持っているかなどの情報です。
 また、糖尿病は生活習慣も関係があることがありますので、食事の内容、どれくらい動いているのか、体重の変化などもわかると、なお良いです。
 食事は写真を撮っておくだけでも良いと思います。
 間食や飲み物も大切な情報ですので、ありのままを記録しておいてください。

最初の受診の時は何をするの?

 そうやって準備をして最初の受診が出来たらあとは医療者と一緒に治療を進めていきます。
 最初の受診の時にはどのようなことをするのでしょうか。
 まず問診票に自分の情報を書きます。
 医療機関によって少しずつ書く項目が異なりますが、先ほど準備してくださいと伝えた情報を書いてもらうことが多いです。
 ここでもし何も準備していないと、かなり時間がかかってしまったり、”不明”と書かないといけない欄が多くなってしまいます。
 診察では、健診結果と問診票から、あなたに関するより詳しいお話を聞かれます。
 検査としては、血液検査と尿検査をします。
 これで、糖尿病かどうかがわかることもありますし、もし糖尿病とわかったなら糖尿病合併症である腎臓のいたみ具合や糖尿病のタイプもある程度わかります。
 また、糖尿病かどうかをしっかり見極めるための詳しい検査をする事もあります。
具体的には、ブドウ糖という糖が入ったサイダーを飲んで、そのあとで血糖値が上がるかどうかを調べます。
 この検査はサイダーを飲んでから2時間後に採血をするので、時間のある別の日にすることもあります。
 この検査で2時間後の血糖値が200mg/dLを超えるかどうかを調べます。
 時間がかかる検査ですが、糖尿病かそうでないかを早い段階で区別するのにとても役立ちます。
 これらの検査で糖尿病かどうかが分かります。
 また、糖尿病の方はそのタイプや合併症の進行具合が判断できます。
 そして、それらの状況にあった治療に移ります。

治療は辛いんじゃないの?

 糖尿病の治療に関しては、かなり個人差がありますので一般的なお話をいたします。
 治療は大きく3つに分けられます。
 その3つは、食事、運動、薬です。
 糖尿病の治療と聞くと、修行のような、辛いイメージがある方もおられるかもしれません。
 実際には”辛い”のはどちらかというと糖尿病による合併症の方です。
 治療は、確かに人によっては”辛い”と思われるかもしれませんが、基本的に”辛い”治療は長続きしないので、糖尿病という長く付き合う病気では”辛い”治療をお勧めすることは少ないです。
 例えば、食事療法に関してですが、いかに長く続けられるか、が最も優先されるポイントです。
食事は人生の楽しみの大きな部分を占めています。
 血糖値が下がるからといって、極端な食事療法をお勧めはしません。
 仮に、この食事療法を継続すれば良くなりますという方法があっても、それを続けられるのは100人中1人くらいです、というような方法はお勧めしません。
 間食を一切しない、ではなく、毎日していた間食を週に1日やめる、間食を1割減らす、食後のデザートの半分を誰かにあげるようにする、などの方法のうち、自分に出来そうなものを選ぶのをお勧めします。
 運動に関しても続けられるかどうかが最優先です。
 運動は嫌いだからしないという人は少なくて、時間が無いせいでできない人が多いです。
 まずは時間を見つける、そしてその時間でできる運動を見つけるのが、運動を始める、続けるコツです。
 睡眠時間以外に、寝転んだり座ったりしている時間、何をしていますか。
 例えば、テレビを見ていたり、YouTubeで動画を見ていたり、ネットニュースを見ていたりする時間は1週間でどれくらいでしょうか。
 その時間のうち、週に150分、1日22分だけ運動しませんか。
 1日22分はまとめて22分運動してもいいですし、1分ずつ22回に分けても良いです。
 野球好きの方だと、自分の応援しているチームの攻撃の時だけテレビの前で立って応援するだけで1時間くらい座っている時間を減らせます。
 エレベーターでなく、階段を使うだけで1分くらい運動できます。
 自分が運動していない時間を少しずつで良いので運動している時間に変えていきます。
 時間さえあれば本来体を動かすこと自体は好きな人が多いので、ぜひ運動を楽しんでみてください。
 薬の治療に関しても、糖尿病の治療薬はとても種類が多く、その中からその患者さんに合ったものを選んでいきます。
 血糖値を下げる力が強い薬、服用回数が少なくて済む薬、血糖値を下げる以外にも体重が増えるのを抑えたり腎臓の合併症が進むのを特に予防できる薬など、たくさん種類があります。
 それを最終的に選ぶのはご自身です。
 薬の服用回数や副作用について自分に合っていないな、と思ったら担当の医療者に伝えてみてください。
 もっと合った薬があるかどうかを探してくれるはずです。
 食事、運動、薬の治療を始めた後でも、その治療の継続が難しくなってきたら、遠慮なく医療者に伝えてください。
 自分にとって無理なく長く続けられる糖尿病治療なら辛さも少ないはずです。

糖尿病の人はみんな糖尿病専門医にかからないといけないの?

 最後に、糖尿病の人はみんな糖尿病専門医にかからないといけないのか、というよくある質問にお答えします。
 結論から言うと、みんなかかる必要はありません。
 日本糖尿病学会 これは糖尿病の専門医を認定している学会ですが、その団体がこんな表を作っています

かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準

 誰でも閲覧することが可能です。

 血糖コントロール改善・治療調整
 教育入院
 慢性合併症
 急性合併症
 手術

 このような場面では糖尿病専門医に協力を仰ぎましょう、と書かれています。
 このような場面になることは糖尿病治療の長い道のりの中ではあまり多くありません。
 治療の道のりのうちほとんどを一緒に歩いて行くのはかかりつけの医療機関の医師です。
 かかりつけ医ほどあなたのことを詳しく知っている医療者はいません。
 ですので、普段は定期的にかかりつけ医に通院して、何かあったらまずかかりつけ医に相談してください。
 かかりつけ医がその多くに対応してくれます。
 そんな中で糖尿病に関してかかりつけ医には手に負えない、困ったことが起こった、と言う時には我々糖尿病専門医の出番です。
 専門医はそんな時のために糖尿病に関する新しい情報を得て、準備しています。
 また、困った時の対応をたくさんしているので慣れていることも多いです。
 必要があれば糖尿病専門医のいる病院で糖尿病の治療の調整のために入院して毎日治療を細かく調整しながらご自身にぴったりな治療を見つけることも可能です。
 そんな時には糖尿病専門医が力になります。
 普段はかかりつけ医、困った時には糖尿病専門医をぜひ頼りにしてみてください。

まとめ

 健診で血糖値が高い、尿に糖が出ていると言われたら症状がなくても医療機関を受診して、糖尿病で困る前に対応してください。
 医療機関は自分が通院しやすい内科を選んでください。
 最初の受診の前には医療機関に連絡してみてください。ご自身の情報についてあらかじめまとめておくと診療がスムーズに進みます。
 最初の受診の時は問診票を書いて、それと健診結果を元にお話します。血液検査、尿検査、ブドウ糖を飲む検査などをして今の状態を正確に判断します。
 治療は、食事、運動、薬が中心ですが、自分にあったもの、辛すぎない方法を選ぶことで長く治療を続けられます。
 かかりつけの医療機関だけでは治療の調整が難しい時に糖尿病専門医が力になります。
 最初の受診までにはいろんなハードルがありますが、ぜひ早めに受診して糖尿病で困ることを減らしてください。
 最後まで読んでいただきありがとうございました。

YouTube動画紹介用PDF

 印刷物でこの動画を紹介してくださる方はこちらのpdfをお使いください。

参考文献・参考書籍

【参考書籍】

糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

免責事項

記事は慎重に作っておりますが、目の前にいらっしゃる医療スタッフの方々に、この記事の内容がみなさまの状況に当てはまるかどうかを確認していただけますと幸いです。所属する施設・団体・組織と関係なく医師資格と糖尿病専門医資格を持った個人として情報を発信しております。十分な注意を払って情報を発信しております。しかしながら情報の正確性、確実性、有用性、適時性もしくは完全性について責任を負うものではありません。万一、情報を利用した結果、利用者に不都合や不利益が生じることがあっても、責任を負えませんので、慎重にご利用ください。情報は、健康・疾患・医療に関する一般的情報を提供するものであり、実際に診療にあたる医療従事者や指導者が行なうアドバイスに代わるものではありません。健康・疾患・医療に関する一般的情報は、必ずしもすべての方にあてはまるとは限りませんのでご注意ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました