【糖尿病専門医が解説】糖尿病があっても楽しい夏にするために知っておく5つのこと

糖尿病があっても安全に楽しい夏にできる方法があります。

はじめに

 糖尿病の方にとって、暑い季節の過ごし方で知っておいた方がいいことがいくつかあります。
 夏には他の季節と同じ糖尿病治療をしていたら危ないことがあります。
 血糖管理のために普段していることが、夏場には逆に体調を悪くすることにつながってしまうこともあります。
 薬の保管方法を間違えると薬の効果が大幅に低下することがあります。
 糖尿病の方が夏場を乗り切る知恵をこの記事につめこみました。

対象

 糖尿病になって初めて夏を迎える方夏場の注意点を聞いたことがない方にとっては特に知っておくと役立つお話です。

糖尿病があると熱中症になりやすい2つの理由

 熱中症は人の体が熱くなりすぎたときに起こる症状です。
 非常に高温多湿な環境の中で十分な水分を摂取せずに運動した場合に起こることが多いです。
 しかし、熱中症は運動をしていない人にも起こる可能性があります。
 糖尿病の方は特に熱中症になりやすいことがわかっています。
 主な理由は二つで、一つは高血糖のために水分が失われやすいこと、もう一つは体温を一定に保つ力が落ちていることです。
 まず高血糖の症状について説明します。
 血糖値が中くらい以上に高いと、その糖を尿の中に捨ててくれるシステムが働きます。
 人によって違いますが血糖値で言うと180mg/dL以上でこの尿の中に糖を捨てるシステムが働くことが多いです。
 血糖値がそれより高ければ高いほどたくさんの糖が尿の中に出ます。
尿の中に糖を捨てる時には、体にとって大切な水も糖と一緒に捨てなければなりません。
ですので、尿の量が多くなります。
 大切な水を捨ててしまうので体の中に水が足りない状態、脱水という状態になります。
 つまり血糖値が高いことが脱水の原因になっています。
 もう一つは、糖尿病の合併症により体温調整が難しくなるためです。
 合併症のうち、適切に体温を一定に保つ神経がいたむ自律神経障害という合併症があります。
 自律神経というのは、特に意識しなくても働いてくれる神経で、体温、血圧、脈拍数、腸の動きなどを適切に保つ役割をしています。
 通常、気温が高くて体温が上がっていると感じたら、汗を出して体を冷まそうとします。
 しかし、自律神経の働きが悪くなるとこの調整がうまくできなくなり汗を適切に出せず、体温の調整ができません。
 脱水と自律神経障害の二つの理由で糖尿病の方は熱中症になりやすいです。
 血糖を普段から適切に管理することがこのような場面でも有効になります。
 気をつけていても熱中症になる事はあります。
 熱中症は大きな後遺症を残すことも死にいたることもあります。
 症状としては、体温が高い、脳の機能が落ちて行動がおかしくなる、歩けなくなる、呼吸や脈が速い、肌が赤い、嘔吐や下痢、筋肉の痙攣や力が入らない、頭痛などいろんな症状が出ることがあります。
 そのような症状が出てきたらかかりつけの医療機関に早めに連絡を取るなどして適切な治療を受けるようにしてください。

気温だけじゃない!暑さ指数を知って使いこなす

 熱中症にならないために、血糖管理や合併症の予防以外に何をしたら良いでしょうか。
 まずは、熱中症の危険度を把握することです。
 天気予報では通常気温のみが表示されます。
 しかし、湿度はどうか、周囲の熱環境、例えば、日光が当たるか、風が吹いているか、周囲にとても熱くなった壁などがないかなど、条件が異なると、体と外気との熱のやりとりが大きく変わります。
 これを数値化したのが、暑さ指数です。
 湿球黒球温度、英語でWet Bulb Globe Temperature 略してWBGTと言います。
 この暑さ指数は、気温と同じ単位、摂氏度(℃)で示されます。
 環境省の熱中症予防情報サイトに予測値や実測値が出ています。
 暑さ指数28℃以上は厳重警戒、31℃以上は危険で、全ての生活活動で熱中症が起こる可能性があります。
 自分が活動する環境の暑さ指数を実際に測定することもできます。
 黒い球がついた、黒球式熱中症指数計という装置を使います。

 タニタ 黒球式熱中症指数計 熱中アラーム TT-562GD

お仕事などで特に暑いところでの活動が多い方は、これを使って活動の時間を決めるのが良いと思います。
 暑さ指数が高い場合は、熱を受けにくく逃がしやすい服装をする、汗でたくさん失われる水分と塩分を補充するなどの対策も一緒にしてください。

夏に血糖値が上がる理由と下がる理由

 夏に血糖値は変動しやすいです。
 血糖値が夏だけ上がってしまう方と、逆に下がる方がおられます。
 上がる理由としては、喉が乾いた時に糖が含まれるものをたくさん飲んでしまうことと、暑さのために運動量が減ってしまうことが挙げられます。
 夏場には甘くて冷たいジュースを飲むと美味いですよね。
 でも、その頻度や量が多くなりすぎないように十分注意してください。
 食事とは別に摂取するためついつい多くなってしまうので、まずどれくらい飲んでしまっているかを記録してみて、多すぎるようなら水やお茶に置き換えてみましょう。
 夏場の運動は工夫が必要です。
 朝の涼しいうちに運動する、冷房の効いた室内で運動する、涼しい場所での休憩を多くとりながら運動するなど、他の季節と同じ運動量をどうやったら安全に確保できるか工夫してみてください。
 室内でできる運動ですが、夏以外でも大雨や大雪で外での運動ができない時のためにできるような環境を整えておくと良いと思います。
 外で動かなくても室内で椅子やダンベルなどを使って筋トレをするのも良いです。
 ダンベルがあれば運動の種類を増やしやすくなりますし強さを調整しやすいと思います。
 逆に血糖値が下がりやすくなることもあります。
 一つは、インスリン製剤の吸収が良くなることです。
 温度が高い方がインスリン製剤の吸収が早くなります。
 インスリン製剤を使ったときに血糖値が下がるのが普段と比べて早くなることがあります。
 また、同じくらいの運動でも体が温かい方が筋肉が働きやすく血糖値が下がりやすいです。
 とても寒い日に体がうまく動かないことがあると思いますが、夏は逆に最初にウォーミングアップしなくても動けることもありますよね。
 運動による血糖値の下がり幅が冬とは違うことがあるので注意しましょう。

夏場に意識を失う糖尿病合併症の原因とは


 夏は、熱中症だけでなく、糖尿病の合併症のために意識を失うことがあります。
 高浸透圧高血糖状態と言って、血糖値がとても高くて血が濃くなりすぎてしまった状態です。
 血が濃くなればなるほど、それをなんとかしようと糖を尿の中に捨てるのですが、そこで体から水が失われます。
 夏は元から水分が少なくなっていることがあり、水を失いやすいです。
 体の中の水分も大きく不足して、極度の脱水という状態になります。
 血の濃さが変わってしまうとだんだん脳の機能が落ちていくので、判断の力もなくなります。
 普段の脳の働きだと、体がおかしいから病院に行かないといけない、頑張って移動しよう、となるのですが、それもわからなくなりボーッとしているだけになります。
 最後には意識を保てなくなり倒れます。
 これを予防するには、血糖コントロールを普段からよくしておくこと、脱水にならないよう水やお茶をこまめに飲むことが有効です。
 夏は血糖管理が乱れやすい時期ですので、できれば暑くなる前に血糖値をちょうど良い値にして夏を迎えてください。

置いていたら糖尿病の薬がダメになる場所がある?

 夏に血糖値が不思議と上がってしまうことがあります。
 その時に確認するのが、薬の保管についてです。
 特に、インスリン製剤は暑さに弱いです。
 インスリン製剤は開封前は冷蔵庫で保存します。
 開封後は直射日光を避けて、涼しい場所に保管します。
 暑い時期はこの涼しい場所がないこともあり、そこにインスリン製剤を置きっぱなしにすることで、インスリン製剤がその血糖値を下げる力を失ってしまうことがあります。
 使用している人と一緒に冷房の効いた部屋に置けるようだったらそれが良いです。
 冷房の効いていないロッカーなどだとインスリン製剤がダメになることがあります。
 他の季節だとほとんど気にしなくていいのですが、夏は開封後のインスリンも保冷バッグ、保冷剤などを使うなど工夫して暑さから守ってあげてください。
 インスリン以外のお薬や血糖測定器のセンサーも高温の場所に置いていたら駄目になることがあります。
 直射日光の当たる車の中は非常に高温になり特に避けた方が良いです。
 お薬の本来の効果を発揮してもらい、血糖管理を安定して行うためには夏はこんなところにも注意が必要です。

まとめ

 糖尿病があると、高血糖により水分が失われ、糖尿病合併症の自律神経障害のせいで体温調節が難しくなり熱中症になりやすいです。
 暑さ指数という、湿度、環境、気温を考慮した熱中症の危険度をあらわす指数をみて活動時間や活動内容を決めてください。
 糖が入った飲料の飲み過ぎ、暑いせいで運動できないために高血糖になることがあります。
 逆に、インスリン製剤の吸収が良くなったり運動により血糖値が下がりやすくなったりすることもあります。
 血糖値がとても高く、血がとても濃く、体の水が不足し意識を失うことがある高浸透圧高血糖状態になりやすいです。血糖管理の治療の見直しとこまめな水分補給をしてください。
 インスリン製剤は熱や直射日光にとても弱いです。涼しい場所に保管しましょう。
 夏は楽しいイベントが多い季節です。
 健康を保って存分に楽しみましょう。
以上です。
 最後まで読んでくれてありがとうございました。

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参考文献・参考書籍

【参考書籍】

糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

免責事項

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