【糖尿病専門医が解説】糖尿病の合併症を11個説明!それぞれの予防や対策がわかる!

合併症

糖尿病の合併症、6つ以上言えますか?

知らないとその合併症の対策は立てられません。

はじめに

 糖尿病の合併症はたくさんあるんです。
 この動画をみれば、糖尿病の合併症について全体像が見えてきます。
 合併症の紹介だけでなく対策についても解説しています。
 結果、合併症を未然に防いだり早めに見つけて対応できるようになれば糖尿病で困ることを減らせます。
 合併症を1つだけ知ってその対策だけしていても不十分です。
 他の合併症が知らない間に進行していることがあります。
 自分の体を少し高いところから眺めるイメージで、どこか危ないところはないかを早めに見つけて対処する必要があります。
 全体像をつかんで合併症で困ることを減らしましょう。

対象

 糖尿病の合併症が気になる方既に一つ以上合併症が起こっている方にとっては特に知っておくと役立つお話です。

合併症は1つだけじゃない

 糖尿病で怖いのは高血糖そのものだけではなく、合併症です。
 合併症というのは、ある病気に伴って起こる別の病気です。
 1文字目の合(ごう)、2文字目の併(へい)はどちらもあわせるという意味です。
 3文字目の症は病気の様子のことです。
 糖尿病を放置しているととそれに伴って、別の病気、合併症が起こります。
 糖尿病の合併症の多くは、血糖値が高い状態が長く続くことで起こってしまうことが多いです。
 糖尿病の合併症は、血糖値が高いこと自体によって短い期間で起こることもありますが、それは割合としては少ないです。
 血糖値のコントロールが良い状態がずっと続けば良いのですが、なかなか完璧にコントロールすることはできません。
 そんな中、合併症が進行するのですが、やっかいなことに、知らない間に進行してしまっていることが多いです。
 しかも、元に戻らない状態まで進行してしまうこともあります。
 糖尿病の合併症は適切な予防をすることで進行をかなり遅くできるものや早めに見つけることで対応がとてもしやすくなるものが多いです。
 合併症は怖いよ、困るよ、ということを伝えるのではなく、こうやると予防できる、こうやると見つかる、こうやると合併症で困ることを減らせるということを中心にお話しします。

”しめじ”で覚える三大合併症の共通点とは

 糖尿病の三大合併症は、神経障害、網膜症、腎症です。
 神経のし、眼のめ、腎臓のじ の頭文字をとって”しめじ”の語呂合わせで覚えられます。
起こってくる順番もこの”し”、”め”、”じ”の順です。


 最初に起こるのが神経障害です。
 両足の感覚神経がいたんで感じにくくなることから始まることが多いです。
 感覚が鈍くなることで怪我に気付きにくかったり、火傷をしやすかったりします。
 感覚神経がいたんでいるかどうかを把握するのは、
  フローリングの床に裸足で立っているのに床の感覚が伝わりにくい、など足の感覚が鈍いことに自分で気づく
  お医者さんでアキレス腱の反射や振動を感じることができるかの検査をしてもらう
 などの方法があります。
 神経障害については別に動画を作っていますのでそちらもご覧ください。


 次に起こるのはしめじの”め”、網膜症です。
 糖尿病があると、目の奥の網膜がいたみやすいです。
 症状はほとんどなく、気づかない間に網膜の病気が進行していることがあり、突然見えなくなることがあります。
 ですので、定期的に眼科を受診して眼の検査を受けることが大切です。
 糖尿病網膜症の予防、早期発見、適切な治療を行い目を守りましょう。
 網膜症についても別に動画を作っていますので詳しくはそちらもご覧ください。


 しめじの”じ”は腎臓です。
 腎臓がいたんできても最初は症状はありませんが、悪くなってしまい腎不全になると、むくみ、息が苦しい、嘔吐するなどの症状が出てくることがあります。
 おしっこの中のタンパク質であるアルブミンと血の中の老廃物であるクレアチニンを検査で調べて腎臓の状態を定期的にチェックしてもらいましょう。
 腎症についても別に動画を作っていますので詳しくはそちらもご覧ください。


 しめじで覚える三大合併症の共通の予防法は、血糖値をちょうどいい値に保つことです。
 HbA1cを7.0%未満、食事の前の血糖値を130mg/dL未満、食事の後の血糖値を180mg/dL未満に保つようにしましょう。
 これが管理できていないと三大合併症はゆっくりですが確実に進んでいきます。
 また、血圧、脂質、体重の管理と禁煙も合併症の予防に有効です。
 三大合併症で困らないように治療の見直しをしてみてください。

”えのき”で覚える動脈硬化の3つの病気から命を守る方法

 次に”えのき”について説明します。
 これらは全て動脈硬化が原因で起こります。
 では動脈硬化とはなんでしょうか。
 動脈とは心臓から血液を全身に運ぶ血管のことを指します。
 硬化は硬い、化けると書きます。
 つまり動脈硬化とは心臓から血液を全身に運ぶ血管が硬く化けてしまうことです。
 比較的分厚く中くらい以上の太さの血管が糖尿病のせいで硬くなってしまいます。
 硬い血管は血液を送るのに不都合が多いです。
 硬くなった血管の狭くなった通り道を細々と血液が流れるようになります。
 さらに狭くなり血管が詰まってしまい血液の流れがなくなってしまうこともあります。
 血液の流れがないと、その先にある臓器がいたんでしまいます。
 足に栄養を送る血管が詰まると、足の壊疽になります。
 脳を働かせるための血管が詰まると、脳梗塞になります。
 心臓を動かすための血管が詰まると、狭心症や心筋梗塞になります。

  足の壊疽の 
  脳梗塞の 
  狭心症 や 心筋梗塞 や 虚血性心疾患の 

 ”えのき”と覚えておいてもいいと思います。
 糖尿病は動脈硬化の主な原因の一つです。
 この動脈硬化による合併症は、それぞれ前兆があることもあります。


 足の壊疽の場合は、足が冷たくなり、だんだんと長い時間歩くと足に痛みや痺れを感じて、短い時間しか歩けなくなります。
 これは休むと回復します。
 さらに進むと安静にしていても痛みが出るようになります。
 最終的には足の皮膚が壊れてしまいます。
 途中の段階で医療機関を受診できれば治療法や悪化を予防することができます。


 脳梗塞も前兆があることがあります。
 前兆と言っても脳梗塞の一歩手前まで来ていることが多いので急を要します。
 顔、腕、しゃべるのがおかしくなったら脳梗塞の症状かもしれないのですぐに救急車を呼ぶというのを覚えておくと良いです。
 米国脳卒中協会は覚え方としてFASTの頭文字を使って注意喚起を行っています。

F.A.S.T. Materials
By learning and sharing the F.A.S.T. warning signs, you just might save a life from stroke. Use these resources to spot a stroke F.A.S.T.


 FはFace droopingの頭文字です。
 顔が垂れ下がることです。
 AはArm weaknessの頭文字です。
 腕の力が弱くなることです。
 SはSpeech difficultyの頭文字です。
 しゃべるのが難しくなることです。
 TはTime to callです。
 救急車を要請するまでの時間です。
 脳梗塞の症状は様々ですが、関連の強いこれらの兆候は確実に暗記しておいてすぐに行動できるようにしておいてください。


 次に、心筋梗塞についてです。
 心臓の筋肉に血流が行かなくなってしまう病気ですが、前兆としての症状としては運動をしたら胸の痛みなどが出ることがあります。
 しかし糖尿病の合併症のうち、しめじの”し”の神経障害で感覚が鈍って痛みを感じにくくなっている場合はその前兆に気づかず、知らない間に心筋梗塞になって倒れてしまうことがあります。
 早めに見つけるには医療機関で血管の検査や心臓のCT検査を受けるのが良いです。
以上が”えのき”で覚える動脈硬化に関係する糖尿病合併症です。
 しめじの三大合併症とえのきの動脈硬化の3つの病気を合わせて6大合併症と呼ぶこともあります。
 動脈硬化の予防にも血糖管理をしておくことが有効です。
 また、血圧、脂質、肥満、喫煙に関しても見直すことが有効です。

糖尿病歴が短くても起こる急性合併症

 次にお話しするのは、短期間でも起こる急性合併症です。
 糖尿病の方はもちろんですが、忙しいなどの理由で健診を受けておらず、糖尿病の診断をまだ受けていない方がこの急性合併症になって救急車で運ばれることもあります。
 糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態という二つの合併症があります。


 糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリンという血糖値を下げるホルモンが欠乏して起こります。
 インスリンが欠乏すると、血糖値が上がります。
 また、脂肪がどんどん分解されて、ケトン体という物質ができます。
 そして、体がどんどん酸性になっていきます。
 非常に危険な状態で、命に関わることもあります。
 インスリンが欠乏する原因として1型糖尿病という病気があります。
 1型糖尿病は生活習慣と関係なく起こり、予防したり自力で治すことはできませんが少しでも早く気づくことで危険を小さくすることはできます。
 口が乾く、たくさん飲みたくなる、尿がたくさん出る、体重が減る、疲れやすいなどの症状が出た場合に高血糖の可能性も考えて医療機関を受診してください。
 1型糖尿病と高血糖の症状についてはわかりやすい動画を別に作成していますので詳しくはそちらをご覧ください。
 糖尿病性ケトアシドーシスの原因は1型糖尿病以外にもあります。
 それは清涼飲料水の飲み過ぎによって起こるソフトドリンクケトーシスです。
 これは、糖尿病の方が大量の糖質を摂取したときになります。
 こちらは予防ができます。
 とにかく必要な量を超えて大量の糖質摂取をしないことです。
 喉が渇いたときに清涼飲料水を飲むと美味しいのですが、ソフトドリンクケトーシスにならないようにできれば水やお茶を選ぶようにしてください。


 次に、高浸透圧高血糖状態について説明します。
 これは血糖値が高く、血が濃くなりすぎた状態、難しい言葉で血の浸透圧が高くなりすぎた状態です。
 2型糖尿病の治療がうまくいっていないときや、糖尿病の方が水分を失いやすい別の病気にかかってしまった時になりやすいです。
 濃くなりすぎた血を薄めるための治療が必要です。
 ならないためには、水分が不足しないようにすることが大切です。
 水やお茶をこまめに飲んだり、気温が高い場所での活動を短くするようにしましょう。
 体調が悪く水が飲めない場合は医療機関で早めに対応してもらいましょう。

意外なところにも起こる感染症

 糖尿病があると感染症にかかりやすくなります。
 かかったら重症化しやすい感染症も多いです。
 糖尿病では口の中、耳、肺、胆嚢、腸管、腎臓、膀胱、足、皮膚、筋肉、手術の傷などの感染症が増えます。
 感染した部位によって症状は様々です。
 例えば、口の感染症である歯周病は世界で一番多い感染症ですが、糖尿病の方はよりかかりやすいことがわかっています。
 適切な歯磨き、定期的な歯科医院でのメンテナンスで歯周病を防ぎましょう。
 血糖管理が感染自体や重症化の予防に有効です。
 それに加えて、肺炎やインフルエンザなどワクチンで予防できるものは予防接種を検討した方が良いです。
 予防していても感染してしまうことはあります。
 感染症の症状が出たら、安静にしつつ、早めに医療機関に連絡をとるなど対応しましょう。

癌も糖尿病と関係する?

 日本人の死因として一番多いのは、癌です。
 ここまで様々な命にも関わる合併症の説明をしましたが、糖尿病の患者さんの死因で一番多いのも癌です。
 糖尿病患者さんでは他の病気になる率も高くなりますが、癌になる率も高くなります。
 糖尿病では大腸癌、肝癌、膵癌、乳癌、子宮内膜癌、膀胱癌のリスクが増加します。
 リスクが高いことがわかっているので、糖尿病があれば忙しくてもがん検診を受けることをお勧めします。
 また、糖尿病の治療はきちんとしているのに血糖値がどんどん上がっているという時に、癌が血糖値を上げている原因ということもあります。
 血糖値の異常が癌を見つけるきっかけにもなります。
 がんは決して珍しい病気ではありません。
 普段からチェックをしておきましょう。

骨折が糖尿病と関係あるの?

 糖尿病があると、骨折も増えます。
 骨折も血糖コントロールと関係しています。
 また、筋力低下があると転倒しやすくなります。
 筋力と血糖値をうまくコントロールすることが骨折を減らします。
 下半身を鍛える筋トレはそのどちらにもとても有効です。
 スクワットや片足立ちで下半身を鍛えることができます。
 糖尿病の合併症などの状況から運動が制限されることもありますので、主治医の先生と相談してどのような運動をどれくらいの強さでするのが良いか決めて始めてみましょう。

まとめ

 血糖値が高いことが影響して糖尿病患者さんには様々な合併症が起こります。
 全体像を知っておいて困る前に対応してください。
 しは神経障害、めは網膜症、じは腎臓でこれらが三大合併症と呼ばれます。
 医療機関で進行具合をチェックしてもらい、血糖管理や血圧管理などを行うことで予防しましょう。
 えは足の壊疽、のは脳梗塞、きは虚血性心疾患でこれらは動脈硬化が関係しています。
 症状が無いか軽いうちに見つけて、血糖、血圧、脂質、喫煙などを見直すことで予防しましょう。
 インスリンが欠乏する、高血糖、脱水などにより、ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態など意識を失うような急性合併症が起こることがあります。
 高血糖の症状を知って早めに受診すること、水分不足にならないことが大切です。
 全身に様々な感染症が起こります。
 予防接種と症状が出た場合の早めの受診をお勧めします。
 糖尿病では癌も増えます。
 普段から癌検診を受けるようにしましょう。
 糖尿病があれば骨折も増えます。
 血糖管理と筋力を強くすることで予防をしてください。
 以上です。
 最後まで見てくれてありがとうございました。

YouTube動画紹介用PDF

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参考文献・参考書籍

【参考書籍】

糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

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