【糖尿病専門医解説】低血糖の症状と対策を知って糖尿病で困ることを減らす

急性代謝失調

低血糖を減らすことが、低血糖を減らします。

今回は糖尿病の治療中に急に起こる代謝失調の一つ低血糖についてです。

糖尿病と言われている方
低血糖で困っている方
そういった方に情報を提供する医療従事者の方

にとっては特に知っておいた方がよいお話です。

では始めていきましょう。

低血糖とは

 血の中の糖が多すぎる状態を高血糖といい、いつもその状態が続くことを糖尿病と言います。

 高血糖が長期間続くと全身の血管をいためてしまうので、それを予防する必要があります。

 ですので、糖尿病といわれている方は、お食事や運動を見直したり、お薬を使ったりすることで、血糖値を下げてちょうどいい値にするように治療を行っています。

 その血糖値を下げる治療が強すぎるときに血の中の糖が少なすぎる状態、血糖値が低すぎる状態になることがあります。

 これを低血糖と呼びます。
 低血糖は、一般に血糖値が70mg/dLより低いことを言います。

症状

 血の中にある糖が足りないと、糖だけをエネルギーにしている脳が働かなくなってしまいます。

 ですので、そうなる前に、体は自然に血糖値を上げるように働いてくれます。

 血糖値が下がってくると、まず血糖値が下がっているよ、お腹が空いたよ、と脳に知らせてくれるので食事をとって血糖値を上げます。

 しかし、お仕事中や学校で授業を受けている時などはお腹が空いてもすぐには食べられません。

 その度に毎回低血糖を起こしていたのでは困るので、それを防ぐ自動調整のシステムがあります。

 血糖値を自動的に上げてくれているのは、自律神経系のうち交感神経です。

 交感神経が働くと、腎臓のそばにある副腎という臓器からアドレナリンという血糖値を上げるホルモンが出ます。

 アドレナリンには肝臓などに蓄えている糖を分解してそれを血の中に送って血糖値を上げる力があります。

 同時に血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌されるのを減らして血糖値を下げる作用を弱めます。

 肝臓は糖の銀行のような役割をしていて、いざという時のための糖を蓄えておく場所です。

 アドレナリンはそこから預金を下ろすように非常に早いスピードで糖を血の中に送り出してくれます。

 ですので、急速に低血糖になりそうになったらアドレナリンがたくさん出て働いてくれるんです。

 アドレナリンという名前は他のところで聞いたことがある方もおられるかもしれません。

 アドレナリンは、逃走闘争に関連するホルモンの一つです。

 例えば、突然凶暴な動物に出会ってしまったとき、すぐに逃げるか闘うかしないといけない、というときに出るホルモンです。

 怖いと感じて走って逃げるか奮い立って闘うかするために、不安な気持ちにさせ、冷や汗を出し、体を震えさせ、血圧を上げ心拍数を速くして心臓をドキドキさせるなどの作用があります。

 アドレナリンは血糖値が55mg/dL程度まで下がると出てきます。

 アドレナリンは血糖値も上げるし、逃走と闘争にも関わるホルモンなので血糖値を上げるのと同時に冷や汗、ふるえ、心臓をドキドキさせるなどの症状が出ます。

 このような症状は自分でも気付くので、低血糖になって危ないよという警告の意味もあります。

 この危ない段階で低血糖に対応しておくのが大切です。

 アドレナリンが出ることで血糖値が上がることが多いのですが、いつも十分な効果がすぐに出るわけではありません。

 アドレナリンの血糖値を上げる力が足りないと、血糖値がそのまま下がってしまい、よりひどい低血糖になってしまうことがあります。

 そうなると脳が働くのに必要なブドウ糖が足りなくなります。

 脳はブドウ糖以外の栄養を使えないので、低血糖に非常に弱いのです。

 脳の症状は血糖値が50mg/dL程度になると始まります。

 低血糖になると、脳がしている仕事、例えば、計算をする、言葉を話す、周りで何がおこっているのかを理解するといったことができなくなります。

 さらに血糖値がとても低い状態になってしまうと、意識を失うようになります。

 日にちや時間がわからない、場所がわからない、ウトウトして眠くて目を開けていられない状態になります。

 血糖値が30mg/dL程度になると、周りが大きな声を出しても気づかなくなり、強く叩いても起きなくなります。

 どんどん反応が鈍い状態になっていきます。

 これが脳にブドウ糖が足りなくなってしまった結果起こってしまう症状です。

 ここまで見てきましたように、低血糖になるとまず、お腹がすいて、それでも食べないと、アドレナリンというホルモンが出て冷や汗、ふるえ、ドキドキといった危険を知らせる症状が出ます。

 低血糖の対応をせず、アドレナリンの力が足りないと、さらにもっと血糖値が下がってきて、脳が働かなくなって計算ができなくなり、周りがわからなくなり、意識を失ってしまいます。

どんな時に低血糖になるのか

 ここまでは低血糖でどんな症状が出るのかを見てきました。

 では、その低血糖はどのようなときに起こるのでしょうか。

 よく起こるのは、血糖値を下げるための糖尿病の治療の強さに対して、血糖値を上げる作用が弱すぎるときです。

 血糖値を下げるのは、運動と糖尿病のお薬です。

 反対に、血糖値を上げるのは、主に食事です。内臓脂肪が多すぎるという状態やストレスも血糖値を上げます。

 糖尿病の薬をいつも通り使ったのに対して、忙しい、食欲がないなどの理由で食事を食べられなかったらどうなるでしょうか。

 また、食べた後、嘔吐してしまったらどうなるでしょうか。

 いつも通り糖分が入ってこないので薬が血糖値を下げる力に比べて上げる力が弱すぎて、結果、血糖値が下がりすぎてしまいます。

 他にも、誤っていつもより多い量の薬を使ってしまった、運動をいつもより長い時間し続けた、内臓脂肪が減ったなどで血糖値が下がりすぎてしまうことがあります。

 糖を預かってくれていて必要な時に返してくれる肝臓の機能を落としてしまうアルコールを摂取しすぎた時になることもあります。

 血糖値を下げる治療は大切なんですが、いつもと違う行動をするときには血糖値が下がりすぎないかを考えてからしないと低血糖になってしまうことがあります。

 高血糖が長い期間続いて、自律神経系のうち交感神経がいたんでくると、先ほど説明したアドレナリンが出る反応が起こらなくなります。

 糖尿病の合併症である自律神経障害が低血糖を起こりやすくしてしまうのです。

 また、逆に低血糖を繰り返しているうちに、血糖値が低くなっても、どうせいつものことだし放っておこう、と体が危険を感じずに、アドレナリンを出してくれなくなることがあります。

 例えば、最初に虎を見たときには怖いのでアドレナリンが出ます。

 でも毎日見ていたら慣れてしまって逃走や闘争のホルモンであるアドレナリンが出なくなるようなものです。

 こうなると低血糖だ、と気付くような危険を知らせる症状、例えば冷や汗やふるえやドキドキがなくなります。

 すると気づかないうちにそのまま血糖値が下がり続けて、低血糖のせいで脳が働かなくなって意識を失ってしまうのです。

 危険信号が出ない、自分で気づかない低血糖の方が重症になりやすいのです。
この気づかない低血糖を無自覚低血糖と言います。

 意識を失ってしまうので起こしたくないですね。

 この低血糖に慣れてしまったという怖い状態ですが、元に戻る可能性があります。

 つまり低血糖に反応してアドレナリンをまた出せるようになる可能性があるんです。

 それには、3週間続けて低血糖が起きないようにすると良いと言われています。

 低血糖を起こさない期間を作ることが、アドレナリンがまた出やすくなるために有効なことがあります。

 危険信号が出ない状態で3週間低血糖を起こさないようにするのは簡単ではないので、これからお話する低血糖の予防、対応、再発予防を理解することが大切です。 

予防

 低血糖の予防としては、自分の血糖値がどのくらいなのかをよく知っておくのが一番です。

 かかりつけのお医者さんで、血糖値や過去1から2ヶ月の血糖値の平均値を表すHbA1cの値がどのくらいなのかを調べてもらっている方は多いと思います。

 他に、血糖自己測定といって、手のひらサイズの器械を使ってご自身で血糖値を測っている方もおられると思います。

 持続的に皮膚に柔らかい針を刺しておいて、24時間ずっと血糖値がわかるようにする器械を使うこともあります。

 そうやって調べてみて、血糖値が低すぎてちょっとのことで低血糖になりそうだというときは、かかりつけのお医者さんと相談して、薬の調整、食事や運動の見直しなどをしてみてください。 

低血糖が起こったときの対応

 ここまで、低血糖とは何か、症状、予防についてみてきましたが、それらを知っていても低血糖になってしまうことはどうしてもあります。

 その場合の対応についてお話します。

 先ほど紹介した低血糖の症状をまずはしっかり覚えておいて、すぐに低血糖かもしれないなと思うことが大切です。

 可能なら、すぐに血糖値を測るのが良いのですが、測定ができない場合も多いと思います。

 測定できないけど明らかに低血糖の症状があるという時は、低血糖と考えてすぐに対応してください。

 低血糖になったときの基本的な対応は、ブドウ糖を口から摂取することです。

 低血糖の対応は迷わず、すぐにブドウ糖を使ってください。

 ブドウ糖がすぐに使えない場合は、血糖値が上がるのが少し遅くはなりますが、代わりに他の炭水化物を摂取してください。

 ブドウ糖は薬局の他にコンビニやスーパーなどでも手に入ります。

 ラムネ、粒、粉、ゼリー、飲み物など、いろんな形のブドウ糖があります。

 味や携帯のしやすさなど自分に合ったものを利用してください。

 必ずいつもそばにあるようにして、低血糖が起こったらすぐにブドウ糖が使えるようにしておいてください。

 ブドウ糖を準備しておいてもひどい低血糖だとブドウ糖が使えない時もあります。

 低血糖の症状で、意識を失うこともあるとお伝えしました。
 そのような場合はブドウ糖が口から摂取できませんがどうしたらいいでしょうか。

 意識を失っているのでまわりの人に助けてもらわないといけません。

 助けてもらうためには、低血糖について周りに知っておいてもらうことが大切です。

 いつも近くにいる方に、ご自身で低血糖について説明しておくか、それが大変でしたら低血糖について書いてあるリーフレットを渡しておいたり、このような記事を紹介していただくだけでもよいと思います。

 低血糖の対応の基本はブドウ糖とお伝えしましたが、意識を失っている人に無理やりブドウ糖を口の中に入れて飲ませようとするのは危ないです。

 水分やブドウ糖が食道の方でなくて気管を通って肺のほうに行ってしまうことがあります。

 応急対応としては、くちびると歯茎の間にブドウ糖を塗る方法がありますが、これだけでは不十分であることが多いです。

 意識を失っている場合、するべき対応はすぐに医療機関へ運んでもらって注射でブドウ糖を血の中に入れてもらうことです。

 一刻を争う緊急事態ですので、低血糖で意識を失っている場合は迷わず医療機関に運んでもらうのが大切です。

 もう一つは、あまり一般的ではありませんが、グルカゴンという血糖値を上げるホルモンのお薬を使う、という方法があります。

 グルカゴンによる低血糖の治療は効果が強くて、家族など周りの人が使ってあげれば意識を失うような低血糖でも血糖値を上げることができます。

 低血糖で意識を失うことが多いなど、重症の低血糖を繰り返されるようでしたら、一度かかりつけのお医者さんで低血糖の時に使うためのグルカゴンを処方してもらえないか相談してみてください。

再発を予防する方法

 低血糖は起こしたくなくても、起こってしまうことはあります。

 起こってしまったことは仕方ないので、次に生かす、その材料にするのが大切です。

 低血糖が起こったら、次からは同じ理由では低血糖が起こらないよう対策を考えてみてください。

 そのために、まずなぜ低血糖が起こったのか、低血糖が起こる前のことを出来るだけ記録しておいてください。

 自分で原因がわからない場合はかかりつけのお医者さんと一緒に原因を探してみてください。

 中には詳しい検査をしないと突き止められない珍しいことが原因の低血糖もあります。

 原因を突き止めたら、それが起きないように対策を考えてください。
 これも一人で思いつかない場合は、かかりつけのお医者さんと一緒に考えてください。

 原因がもしうっかりミスだとしても、どうやったらうっかりミスをしないかを考えてください。

 低血糖が起こったら、原因解決策をすぐに見つけてあげて解決策を考えることで、低血糖が起こる原因を一つ一つ減らしていけば、どんどん低血糖が起こることを減らすことができます。

 再発予防はとても大切です。
 原因を突き止めて、それをなくす。

 それを繰り返していくことでだんだん低血糖が減っていくはずです。

 低血糖の自覚がなくて困っていた人の中にはそうして低血糖が無い期間を3週間作れば、元の低血糖に気付きやすい体質に戻って、低血糖対策が立てやすくなることもあります。

 低血糖を起こさないことが、低血糖を起こさないことにつながります。

 低血糖を起こさないための工夫は手間と時間を惜しまず考えてみてください。

まとめ

 今回は低血糖についてお話しいたしました。

 低血糖は血の中の糖が足りない状態で、血糖値が70mg/dLより低い状態のことです。

 お腹が空く不安冷や汗ドキドキふるえがくるまわりがわからなくなる意識を失ってしまうという症状が出ます。

 食事を取れなかったり、運動量がいつもより多かったりすると起こることがあります。

 予防としては普段から血糖値をよく調べて、糖尿病の治療の調整をすることが大切です。

 低血糖が起こってしまったら、ブドウ糖を口からとる、意識を失っていたら歯茎にブドウ糖を塗ってもらい医療機関に搬送してもらうよう周りの人に説明をお願いします。

 起こってしまった低血糖は、しっかり原因を見つけて、次に同じ原因で低血糖が起こらないように解決策を考えることが大切です。

 低血糖を減らす工夫が、より低血糖を減らし、低血糖で困ることを減らします。

 最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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参考文献・参考書籍

【参考文献】

I Cranston, J Lomas, A Maran, I Macdonald, S A Amiel:Restoration of Hypoglycaemia Awareness in Patients With Long-Duration Insulin-Dependent Diabetes. Lancet 344:283-287,1994

【参考書籍】

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

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 記事は慎重に作っておりますが、目の前にいらっしゃる医療スタッフの方々に、この記事の内容がみなさまの状況に当てはまるかどうかを確認していただけますと幸いです。所属する施設・団体・組織と関係なく医師資格と糖尿病専門医資格を持った個人として情報を発信しております。十分な注意を払って情報を発信しております。しかしながら情報の正確性、確実性、有用性、適時性もしくは完全性について責任を負うものではありません。万一、情報を利用した結果、利用者に不都合や不利益が生じることがあっても、責任を負えませんので、慎重にご利用ください。情報は、健康・疾患・医療に関する一般的情報を提供するものであり、実際に診療にあたる医療従事者や指導者が行なうアドバイスに代わるものではありません。健康・疾患・医療に関する一般的情報は、必ずしもすべての方にあてはまるとは限りませんのでご注意ください。

 

 

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