【糖尿病専門医解説】糖尿病から腎臓を守る方法 糖尿病腎症(糖尿病性腎臓病)の予防の知識を手に入れて困らないようにする

糖尿病腎症

腎臓をまもるためには血糖値を良い値にしておくことが大切ですが、それだけでは不十分です。

腎臓は糖尿病があるといたみやすい臓器です。
糖尿病の三大合併症のうちの一つです。

腎臓は生きていくのにとても大切な役割をしています。
その腎臓をまもるためには血糖値の管理だけでは不十分です。
では何に気をつけたら良いのか。
この記事で知識をつけて腎臓を守っていきましょう。

糖尿病の方,腎臓がいたんできている方にとっては特に知っておくと役立つお話です。

腎臓

 腎臓はとても大切な臓器です。

 腎臓には血液を濾過することで体の中をちょうどいい状態に保つ役割があります。

 濾過をする部分はとても細い血管が毛糸の玉のように丸まっているので糸の球と書いて糸球体と呼ばれています。

 糸球体は1つの腎臓に約100万個あります。

 そこに血液が流れきて、1日に約150リットルくらいを濾過しています。

 濾過することで腎臓は、体の中から余分なもの、老廃物を体の外に捨ててくれます
 体にとって少しでもあると毒になるもの。
 体にとって多すぎるといけないもの。
 それらを余分な水と一緒におしっこの中に捨ててくれる臓器です。

 しかも体にとって必要なものは体の中に残したまま、いらないものだけを捨ててくれます。
 腎臓はこうやって体をいつも同じ状態に保ってくれています

症状

 糖尿病で腎臓がいたんでも初期には症状はほとんどありません

 長期間高血糖が続いて腎臓がいたんでくると、体にとってとなるものや、必要以上の水や塩分が体に残ってしまいます。

 逆に、体にとって必要なタンパク質が捨てられてしまいます

 血の中のタンパク質が減ってしまうと血管の中から血管の外に水が移動します。
 そうすると皮膚の下にある皮下組織に水分がたまってきて足などが浮腫んできます

 また、肺のまわりやお腹に水がたまることもあり、息が苦しくなることもあります。

 水がたまるので体重が増えます

 また、おしっこの中に捨てられるはずのが溜まってしまい、気持ち悪くなったり、嘔吐したりすることもあります。

 塩分バランスが崩れることで、心臓のリズムがおかしくなってしまう不整脈という状態になったり、意識を失ったりすることもあります。

 このように腎臓がいたんでも初期には無症状ですが、腎臓のダメージが大きくなり腎不全という状態になるとむくみや嘔吐、息苦しさなどが出てきます。

検査

 そのようなことになる前に対策を立てるために、まず腎臓の状態を知ることが必要です。

 糖尿病で腎臓がいたんでいるかを調べるにはおしっこの検査が役に立ちます。

 おしっこの中にどれくらいのタンパク質が漏れ出ているかを調べるのです。
 タンパク質は通常は尿に捨てられることはないです。

 血の中に含まれるタンパク質の中で一番多いアルブミンというタンパク質があります。

 糖尿病で高血糖が長期に続くと、腎臓がいたんで尿の中にこのアルブミンというタンパク質が漏れ出てきます

 ですので、おしっこの中のアルブミンを調べると、糖尿病でどれくらい腎臓がいたんできているかがわかります。

 おしっこの中にアルブミンが出てきていると腎臓をまもる対策を立て直す必要があるのがわかります。

 また、血液の中に筋肉を動かした後の老廃物であるクレアチニンという物質があります。

 クレアチニンは体には不要なので、腎臓から捨てられるのですが、腎臓の働きが悪くなってしまっていると、血の中にこの老廃物のクレアチニンが溜まります。

 血の中のクレアチニンの濃さを調べることで、腎臓がどれくらい働いているかを調べることができます。

 腎臓の働きが落ちているのがわかったら、一部の薬の量を減らさないといけないか、食事や水分の取り方を調整する必要があるかなどがわかります。

 これらの検査は、定期的に行うことが推奨されています。

 腎臓のチェックのために、おしっこの中のタンパク質であるアルブミン、血の中の老廃物であるクレアチニンを定期的に調べて、腎臓の状況を確認してみてください。

予防

 ここまで腎臓の役割、糖尿病と腎臓の関係、症状、検査についてみてきましたが、糖尿病の方が腎臓を守るためには何をしたら良いのでしょうか。

 まず、他の糖尿病の合併症と一緒で、血糖値を良い値に保つことが大切です。

 血糖値は食事の前の血糖値を130mg/dL未満食後2時間の血糖値を180mg/dL未満に保つと良いといわれています。

 過去1から2ヶ月の血糖値の平均値を反映するHbA1cは7.0%未満に保つと良いといわれています。

 これは他の糖尿病の合併症を防ぐための目標値と一緒です。

 血糖値を目標値内におさめることは、糖尿病のたくさんの合併症を同時に予防できるので、一石二鳥どころか一石十鳥以上の成果が得られる予防法です。

 腎臓を守るためには血糖値を良い値にしておくことが大切ですが、実はそれだけでは不十分です。

 腎臓を守るために血糖値の他に何を気を付けたら良いでしょうか。

 まず、血圧です。

 血圧が高すぎることで腎臓が早くいたんでいくことがわかっています。

 高血糖と同じくらいか場合によってはそれ以上に高血圧は腎臓をいためます。

 血圧をちょうどいい値に保つには、塩をとる量を減らすこと、血圧を下げるお薬を使うことが有効です。

 塩を取ることを減らすには、どれくらいの塩をとっているのかを記録して、どの食品を減らすかを考えるのが良いと思います。

 一人で難しければ写真を撮影するなどして、管理栄養士さんなど診てくださっている医療従事者に相談しながら塩を減らす治療をすると効果が高く、長く続けられると思います。

 また、血圧を下げるにはお薬も有効です。

 年齢によって少し異なることもありますが、診察室で測ったときに130/80mmHg未満,ご自宅で測ったときに125/75mmHg未満になるように血圧を調整するといいといわれています。

 血糖、血圧の他に、脂質異常症がある方はそのお薬を使うことも腎臓を守ることにつながります。

 また、タバコを吸っている方は腎臓がいたむのが早くなるので、腎臓を守るために禁煙をお勧めします。

 予防法は主に4つあり、血糖値血圧脂質のコントロールと禁煙が大切とお伝えいたしました。

治療

 こうやって予防していても腎臓が悪くなってしまうことや予防法を実践できないことはあります。

 腎臓が悪くなった後はどのようにしたら良いでしょうか。

 腎不全という状態になったら、腎臓への負担を減らす治療や腎臓の仕事の代わりをする治療を行います。

 体に溜まりやすいカリウムという塩分を食事から取るのを減らしたり、血の中に溜まってしまうカリウムやリンといった物質や毒になるようなものを腸の中で吸着して便と一緒に排泄するお薬を使うこともあります。

 水分は不足することも余りすぎることもあります。

 不足していたら飲むのを増やし、余っていたら減らします。

 このような食事やお薬の調整でも老廃物を出すのが不十分になった場合は、透析や他の人から腎臓をもらう腎移植を検討することもあります。

 腎臓が悪くなってしまった後の治療としてはこのような方法があります。

まとめ

 腎臓は体にとっていらないものを捨てて、いるものだけを残してくれる大切な臓器です。

 糖尿病で高血糖が長く続くと腎臓がいたんできます。

 腎臓がいたんできても最初は症状はありませんが、悪くなってしまい腎不全になると、むくみ、息が苦しい、嘔吐するなどの症状が出てくることがあります。

 おしっこの中のタンパク質であるアルブミンと血の中の老廃物であるクレアチニンを検査で調べて腎臓の状態を定期的にチェックして治療の見直しを検討してください。

 予防としては、血糖値血圧脂質をいい値に保つことと禁煙が有効です。

 悪くなってしまったら、食事水分の取り方の調整をし、腎臓から捨てられず溜まってしまう塩分や毒を減らすお薬を使いますが、それでも駄目なら透析や腎移植を検討することがあります。

 腎臓を守る方法を知って実践することで、糖尿病で困ることを減らしてください。

 以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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参考文献・参考書籍

【参考文献】

N Engl J Med 1993; 329:977-986

Diabetes Care.2007; 30:2523–2528.

BMJ 1998;317:703

Cochrane Database Syst Rev (12):CD006763, 2010

PLoS One. 2019 Feb 4;14(2):e0210213

【参考資料】

糖尿病診療ガイドライン2019

病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌

病気がみえる vol.8 腎・泌尿器

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